認知症
2024/02/25
目次
なぜ今、認知症予防が重要なのか
55年前の1970年
日本における高齢者の人口が7.1%となり、日本は高齢化社会に突入しました。
その当時から、日本ではさらに高齢化が進み、
医療費の増大をはじめとしたさまざまな問題が生じてくることが予想されていました。
もちろん、さまざまな対策が講じられてきていたわけですが、
あれから50年。
その結果はどうだったでしょうか。
医療の観点からみていくと、
医療技術の進歩により、
平均寿命や健康寿命は延びてきています。
しかし、平均寿命と健康寿命の差は決して縮まってはいません。
もちろん、平均寿命が延びてきているわけですから、
取り組みがなければ、
もっと平均寿命と健康寿命の差は開いていたかもしれません。
実際、WHOが発表した世界保健統計2023年版によると、
日本人の平均寿命は84.3歳(男性 81.5歳、女性 86.9歳)と世界第一位
健康寿命も74.1歳(男性 72.6歳、女性 75.5歳)とこちらも世界第一位
となっています。
提示したグラフは、
2020年までは、総務省「国勢調査」(2015年および2020年は不詳補完値による)
2022年は総務省「人口推計」(令和4年10月1日現在確定値)
2025年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」の出生中位、死亡中位による推計仮定による推計結果です。
グラフを見ても明らかなように、
高齢化とそれを支える人口の低下という問題は、今もなお解決の糸口を見つけてはいません。
実際、2025年には65歳以上の高齢者が29.6%となり、
その後もその割合が増えることが予想されています。
そして、高齢者を支えることになる15歳~64歳の人口が少ないことが
この問題をより深刻化しています。
少子化対策が功をなしていない現在、
この問題に関しては、
いかに健康な高齢者を増やすのかということが急務であると考えられます
先ほども触れましたが、
この健康寿命を延ばし、平均寿命との差を縮めること、
単に長く生きるのではなく、
健康な状態で長く生きるということを目指す必要があるわけです。
参考)平均寿命と健康寿命
特に、日本の財政面から考えると、
増え続ける医療費をどうするかということは重要な課題といえます。
その点からも、認知症対策が急務であるということは、
想像に難くないでしょう。
今から10年前の2014年時点でも
認知症の社会的コストは、14.5兆円だったそうです。
それが、2020年には17.4兆円。
今後も増えていくことが予想されています。
高齢になれば、誰でもいろいろな病気になりやすくなります。
では、なぜ医療費問題を考えるとき、
認知症が重要視されるのでしょうか?
認知症には、他の病気との違いがいくつかあります。
まずは、その発症率の高さ。
この割合は、高齢になるほど高くなります。
そして、家族の介護負担の大きさ。
これは、他の疾患に比べ、罹病期間が長いこと、
介護者の精神的負担や介助量が大きいことが関係しているのではないかと思われます。
さらに、認知症の中でもアルツハイマー病に関していえば、
認知症になる20-30年前には、
その原因物質の蓄積が始まっているとされています。
逆に考えれば、原因物質がたまり始める時点で対策をうてば
アルツハイマー病にならない可能性もあるわけです。
そこから考えても明らかな症状が出る前に
予防に取り組むことが重要であることがわかるでしょう。
まずは、脳の老化について、
もう少し詳しくみていきましょう。
脳の老化は30代から始まる
認知症対策していますか?
まだ若いから大丈夫...と思っていませんか?
実は脳の老化は30代から始まると言われています。
私も昔はもっと簡単に覚えられたはずなのに...とか
パッとものの名前や人の名前が出てこなかったりということが
増えてきているような気がします。
25歳と78歳の脳のMRI(冠状断)をみると
パッと見ても全く違うことがわかるでしょう。
具体的には
・78歳のMRIは25歳のものとくらべ、脳溝(脳の表面のしわ)がはっきりして、隙間が大きい
・78歳の方が脳室(脳の中にある腔所)が大きい
他にも、このMRI画像だとわかりにくいかもしれませんが、白質(神経細胞の連絡路がある)にも変化がみられることが多いです。
画像は健康長寿ネットのものを使わせていただきました
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka/nou-keitai.html
脳の重さをみても
・成人男性 1,300~1,400g
・成人女性 1,200~1,300g
なのですが、
90歳になると60歳のときよりも5~7%軽くなるということが分かっています。
早期から認知症予防に取り組む重要性〜原因物質の観点から〜
アルツハイマー病の原因物質の一つとして考えられているのが
アミロイドβです。
神経細胞の外にアミロイドβがたまることが引き金になって
神経細胞内にタウタンパク質の凝集が起こり、
神経細胞が死んでしまうのではないかと推測されています。
ただ、アミロイドβが蓄積してすぐに、
アルツハイマー病が発症するわけではなく、
アミロイドβが蓄積が始まってから
アルツハイマー病が発症するには、20~30年かかるといわれています。
今までと同じ生活をしていれば、
アミロイドβはたまっていくいっぽうです。
65歳以上の5.4人に1人がアルツハイマー病になると言われている時代。
早いうちからアミロイドβを蓄積させないような生活に変えることで
認知症を予防することが重要なのです。
認知症というと病名のように思うかもしれませんが、
腰痛や頭痛というのと同じように、状態を表す言葉です。
つまり、アルツハイマー病や脳梗塞といった病気になった結果、
脳の神経細胞が減って認知症という状態になるのです。
そのため、認知症と一概にいっても
その原因にはいろいろあります。
治療可能な認知症を見逃さないために
認知症というと一般的にはどうしても治らないというイメージが強いかと思います。
そのためか、認知症の初期の段階で病院を受診されるという方は意外と少ないのです。
病院を受診されるときには、かなり症状が進行している方がほとんどです。
「どうせ治らないんだから、わざわざ受診しなくても。。。」
という言葉を聞いたこともあります。
それだけでなく、
認知機能の低下がある日突然、起こるというわけではなく、
ゆっくりと進行することが多いということも受診が遅れる原因かと思います。
どうしても初期の段階では老化による物忘れとの区別がつきにくかったり、
自分の大切な家族が認知症だということを認めたくないという気持ちが強かったり、
若い世代といっしょに暮らしていないため、周りの人が「あれっ?なんかおかしい」と思ってもなかなか受診つながらなかったり
など、理由はさまざまですが、
病院を受診するときには、
誰が見てもわかるほど認知機能が低下しているということが多いのです。
ただ、知っておいてほしいのは、
「認知症の中には治療可能な認知症がある」
ということです。
たとえば、正常圧水頭症、ビタミンB1欠乏症、甲状腺機能低下症
などといった病気は
適切に治療することによって認知機能低下が改善します。
とはいえ、これらの疾患であれば、
どの段階で治療にあたっても治りうるかといわれるとそうではありません。
神経細胞が死滅し、脳が萎縮してしまってからでは、遅すぎます。
やはり、初期の段階で見つけて、きちんと診断し治療をするということが大切なのです。
とはいえ、どこにいけばいいの?
と迷われる方も多いかと思います。
神奈川県では、県のホームページに認知症の診療を行う医療機関名簿というものを載せています。
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/u6s/cnt/f6401/p454893.html
認知症の原因疾患の診断がついていない場合は、
この中で、鑑別診断を行っている医療機関への受診をお勧めします。
最低でも画像診断が行えるところがよいかと思います。
薬剤誘発性認知症
1995年と昔の報告にはなりますが、
Weytinghらによると回復可能な認知症の原因を調べたところ
最も頻度が高かったのが うつ病で23.8%
薬剤は、うつ病に次いで第2位で18.5%でした。
(Reversible dementia: more than 10% or less than 1%? A quantitative review. J Neurol. 242: 466-471, 1995)
ここで短絡的に、「薬は体に悪い」といって飲んでいる薬をやめてはいけません。
主治医の先生に処方された薬というのは、必要があって出されたものです。
たまに、自分が何のお薬を飲んでいるのかわからないという人をみかけますが、
今、自分がどのような薬を飲んでいるのかを把握しておくことは非常に重要です。
その上で、ずっと同じ薬を飲んでいるのであれば、
その薬が今の自分の状態にあっているのかを検討していく必要があります。
年齢を重ねるにつれて、昔とは食事の好みが変わっていったり、
お薬を体の外に出す力が弱まったり、病気のせいでお薬の効き方が変わったりする場合があります。
それだけでなく、
以前に出された痛み止めなどを痛みがなくなってからもずっと飲んでいる
という人を見かけることがよくあります。
特に、お薬の量が多い方は見直しが必要かもしれません。
また、新しくお薬を始める方は、お薬を飲みだした後の体調に注意しましょう。
頻度が少ない副作用であっても、たまたまご自身にその副作用が出る場合があります。
認知機能低下をきたすお薬として、抗コリン薬が有名です。
抗コリン薬については、昔のブログも参考にして下さい。
https://hetero-clinic.jp/blog/detail/20231027160225/
参考)薬剤による認知機能障害 水上勝義 第105回日本精神神経学会総会シンポジウム
~~~周辺症状~~~
認知症の周辺症状とは
残っている神経機能が外界と反応として示す症状です。
まずは、認知症の周辺症状の定義についてみていきましょう。
周辺症状: BPSD (Behavioral and psychological symptoms of dementia)
「認知症患者にしばしば生じる、知覚認識または思考内容または気分または行動の障害による症状」
と国際老年精神医学会が1999年に主催したアップデート合意会議で定義されています。
知覚の異常な認識:幻覚など
思考内容の障害(異常な情報のとらえ方):妄想など
気分障害:うつなど
行動の障害:徘徊など
のことを言います。
周辺症状には、行動症状と心理症状があります。
行動症状には、
心理症状には、
家族や介護職員、看護師など認知症の方をケアする側からすると
こういった周辺症状(BPSD) で困ることが多く、
介護負担が大きくなる要因となっています。
そのため、在宅で介護することが難しくなってり、
抗精神病薬など症状を抑えるためのお薬を使わざるを得ない状況になります。
身体的治療が優先される病院では、身体拘束をせざるをないことも少なくありません。
中核症状が神経細胞の障害で起こるのに対して、
周辺症状というのは、神経細胞の障害以外の要因も大きく絡んできます。
たとえば、その日の体調や使うお薬、
その人とのかかわり方、
周辺の環境などの要因が複雑に絡んでくるわけです。
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認知症については、こちらのブログ記事も参考にしてください。