認知症の方との旅行を安心に|家族が知っておきたい3つの注意点と準備のコツ【医師監修】
2025/11/07
目次
「昔のように、家族みんなで旅行に行けたら――」
そう願っても、
認知症を抱えた家族との外出には不安がつきものです。
「疲れさせてしまわないか」
「途中で混乱しないか」
「迷子にならないか」――。
心配が重なり、
「もう旅行は無理かもしれない」とあきらめてしまう方も少なくありません。
けれども、認知症の方にとって旅行は、心の活性剤になる時間でもあります。
新しい景色や空気、家族の笑顔に触れることは、脳の“情動ネットワーク”を刺激し、
幸福感や安心感を引き出してくれるのです。
ただし、慣れない環境や移動による刺激は、脳にとって小さくないストレスになります。
そのため、ほんの少しの工夫と準備が、安全で楽しい旅を左右します。
この記事では、医師の立場から
「認知症の方との旅行を安心して楽しむための3つの注意点」と
「事前準備のコツ」を、わかりやすくご紹介します。
あきらめる前に、“やさしい旅”の形を一緒に考えてみませんか。
① 疲れ対策を徹底しよう
認知症の方は、新しい環境に適応するだけで脳がたくさんのエネルギーを使います。
普段よりも周囲を見回し、情報を処理しようとするため、
外出先では想像以上に疲れやすいのです。
旅行を楽しんでいたはずが、途中から
・ぼんやりして注意が散漫になる
・小さな段差でつまずく
・不機嫌になる、眠くなる
といった変化が見られることがあります。
疲労が強まると“せん妄(軽い混乱状態)”が出ることもあるため、
「予定を詰め込みすぎない」ことが最大の安全対策です。
たとえば――
・長時間の移動は避け、休憩スポットをあらかじめチェックしておく
・観光地を「ひとつ減らす」勇気を持つ
・目的地やスケジュールを変更できる余裕を持つ
もしご本人が「自分のせいで予定が変わった」と気にしているようなら、
「ちょうど私たちもゆっくりしたかったの」「このプランも楽しそうだね」と、
“一緒に楽しんでいる”ことを言葉で伝えることが、何よりの安心になります。
② 記憶障害への配慮を忘れずに
旅行中は「なぜここにいるのか」「どこへ向かっているのか」が
一時的にわからなくなることがあります。
そんな時、焦りや不安が強まると、混乱や徘徊につながることもあります。
そのためにできるのが、“繰り返し伝える・見せる”サポートです。
たとえば――
・目的地の写真やパンフレットを一緒に見る
・簡単な行程表を作り、現在地や予定を指差しで伝える
・「○○へ向かっているところだよ」と、何度でも丁寧に声をかける
また、宿泊先で朝起きたときに「ここはどこ?」と混乱することも。
そんな時には、ご本人の好きなお菓子を渡したり、
家族旅行の写真を見せたりするだけで、安心して穏やかに過ごせる場合があります。
小さな“安心の手がかり”が、ご本人の一日を穏やかにしてくれます。
③ 同行者も“がんばりすぎない”
認知症の方との旅行では、家族の配慮や準備に多くのエネルギーが必要です。
そのため、同行者自身が疲れすぎてしまうことも少なくありません。
せっかく頑張って企画したのに、
・ご本人が思ったより喜ばなかった
・途中で眠ってしまった
・すぐ忘れてしまった
そんな時、少しがっかりする気持ちが湧くのも自然なことです。
でも、出来事の記憶は薄れても、「楽しかった感情」は脳に残ります。
それは扁桃体(感情の中枢)に刻まれる“情動記憶”と呼ばれ、
本人の安心感や幸福感につながることがわかっています。
つまり、旅行の目的は「思い出を残すこと」ではなく、
“その瞬間の笑顔を共有すること”なのです。
同行者も無理をせず、ゆるやかなペースで過ごしましょう。
続く第2章では、
💡 「トラブルを防ぐための事前準備チェックリスト」を実践的にまとめます。
持病・排泄・徘徊・移動サポートなど、旅先で役立つ備え方を整理していきます。
認知症の方との旅行は、
「想定外を減らす」ことが何よりの安心につながります。
慣れない環境では、ちょっとした体調の変化や不安が大きく出やすいため、
出発前の備えを“ひと手間多め”にしておくことがポイントです。
ここでは、旅先で起こりやすい5つのトラブル別に、
事前準備のチェック項目を整理しました。
🩺 1. 持病・体調トラブルに備える
認知症の方は、体調変化を自分で訴えにくいことがあります。
「いつもと違う」
「なんとなく元気がない」
などのサインを見逃さないようにしましょう。
旅行前にできる準備:
✅ かかりつけ医に旅行の予定を相談する
✅ 常用薬・頓服薬は多めに持参する(+お薬手帳・健康保険証)
✅ 緊急時の連絡先・持病のメモを携帯する
✅ 熱中症・脱水対策に、飲み物と塩分補給を準備
✅ 長時間の移動時は、体を伸ばす時間を必ず確保
💡【医師のひとこと】
「どこが痛い」「気持ち悪い」と訴えにくいのが認知症の特徴です。食欲や表情、会話のトーンなど“いつもとの違い”を観察しましょう。
💭 2. 不安・混乱に備える
旅行中は、環境の変化で一時的に不安や混乱が強まることがあります。
そんな時のために、“安心できる小道具”を用意しておきましょう。
あると安心な準備:
✅ ご本人が好きな写真・お菓子・音楽など“安心アイテム”
✅ 旅程をざっくり書いた「簡単行程表」(写真付きがおすすめ)
✅ 移動中は「○○に向かっているよ」とこまめに伝える
✅ 予定を変更できる柔軟なスケジュール(プランB)を準備
💬【安心のコツ】
ご本人が混乱しているときは、
理由を説明するより、「一緒にいる安心感」を伝えましょう。
「大丈夫、一緒にいるよ」「ここに来られてうれしいね」といった声かけが心を落ち着けます。
🚻 3. 排泄に備える
ふだんは問題がない方でも、
旅行中は環境の変化や緊張でリズムが乱れやすくなります。
恥ずかしさや遠慮から我慢してしまうケースもあります。
事前にできる対策:
✅ トイレの場所を早めに確認する(地図アプリや施設案内で)
✅ 「念のため寄っておこうね」と、早めに声をかける
✅ 替えの下着・衣類・失禁パッドを携帯
✅ においや汚れが気になるときのために小型消臭袋を持参
🌿【心のケアも大切】
排泄の失敗は、本人のプライドを傷つけることがあります。「大丈夫、誰にでもあることだよ」と、恥ずかしさを和らげる言葉が支えになります。
🧭 4. 徘徊・迷子に備える
宿泊施設や観光地では、
ほんの一瞬のすれ違いで迷子になることがあります。
特に夜間は、同行者が休んでいる間に外へ出てしまうことも。
備えておきたい対策:
✅ GPS機能付きの持ち物(杖・バッグ・キーホルダーなど)を活用
✅ ネームプレート(名前・連絡先)を洋服やバッグに付ける
✅ 当日の服装をスマホで撮影しておく
✅ 宿泊先スタッフへ「認知症の方が同行している」と伝えておく
🔒【ポイント】
万一の時も「準備していたから落ち着いて対応できた」と思えるだけで、心の負担は大きく違います。ご本人が嫌がらない形で、身元確認ができる工夫を。
🦽 5. 移動サポートに備える
普段は杖や手すりで歩ける方でも、
旅先では疲れやすく、足取りが不安定になることがあります。
“ちょっと贅沢かな”と思うくらいのサポートを最初から用意しておきましょう。
移動を楽にする工夫:
✅ シルバーカー・車いすなど“いつもより上の補助具”を準備
✅ 施設のバリアフリー情報(スロープ・トイレ・エレベーター)を事前に確認
✅ 移動距離が長い場合は、タクシー利用も検討
✅ 段差・階段のある観光地は、無理せず写真スポットだけ楽しむ
💡【安心のヒント】
「楽に移動できる=安全に笑顔で過ごせる」こと。無理をしない選択が、結果的に旅全体を心地よくします。
🧾 チェックリストまとめ
| 項目 | 準備内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 持病・体調 | 薬・お薬手帳・健康保険証・主治医への相談 | 緊急連絡先もメモ |
| 不安・混乱 | 安心グッズ・行程表・こまめな声かけ | 好きな音楽や写真を活用 |
| 排泄 | トイレ確認・替え衣類・消臭袋 | 早めの休憩を意識 |
| 徘徊 | GPS・ネームプレート・服装写真 | 宿泊先へ事前共有 |
| 移動 | 補助具・バリアフリー確認 | “少し贅沢”を安全に |
🧠【医師からのアドバイス】
認知症の方との旅行は、
「準備する時間」そのものが大切なコミュニケーションになります。
一緒にパンフレットを見たり、荷造りをしたりすることが、
ご本人の“ワクワクする気持ち”を引き出してくれるのです。
次の章では、
🌿 「旅をもっと楽しむための声かけ・工夫」として、
安心しながら笑顔を引き出すコミュニケーションのコツを紹介します。
旅行の目的は、
「何をしたか」ではなく、「どう感じたか」にあります。
認知症の方にとっては、景色や食事よりも、家族の笑顔や優しい声のトーンが
「楽しかった」という感情記憶として脳に残ります。
だからこそ、“言葉のかけ方”と“過ごし方”が旅の質を左右します。
💬 ① 「覚えていてね」より、「今が楽しいね」
旅行中、ご本人がさっきのことを忘れてしまったり、
同じ質問を繰り返すことは珍しくありません。
そんなとき、「さっき言ったでしょ」などと訂正すると、
相手は“責められた”と感じ、不安や混乱が強まってしまいます。
大切なのは、記憶を取り戻させることではなく、安心を取り戻すこと。
「楽しいね」「いい景色だね」「一緒に来られてうれしいね」――
こうした言葉が、感情の安全基地を作ります。
🧠【脳科学のポイント】
前頭葉の機能が低下しても、感情を司る扁桃体(へんとうたい)は比較的保たれます。そのため、ポジティブな感情体験は「気分の安定」に直結します。
🌞 ② 「できること」を活かすと、笑顔が増える
旅行では、つい「サポートしなきゃ」と思いがちですが、
ご本人の“できること”を活かす工夫をすると、自信と笑顔が自然に生まれます。
たとえば――
・荷物を持ってもらう
・チケットを渡してもらう
・一緒に写真を撮る
・「次はどっちに行こうか?」と選んでもらう
自分が“役に立っている”と感じる体験は、脳の報酬系(側坐核)を刺激し、
幸福感や意欲を高めます。
💡【ポイント】
「手伝ってもらう」のではなく、「一緒に楽しむ」という形に変えることで、ご本人の尊厳と意欲を守る旅になります。
🎵 ③ 「五感」を使って、感情の記憶を残す
認知症の方にとって、感情と結びついた体験ほど長く残ります。
視覚(景色)、聴覚(音楽・鳥の声)、嗅覚(花や温泉の香り)、触覚(風の感触)――
五感を使った体験は、脳の情動ネットワークを豊かに刺激します。
旅先では、
「風が気持ちいいね」
「この香り、懐かしいね」
「お湯があったかいね」
そんな何気ない言葉が、感情の記憶をやさしく刻みます。
🌿【実践ヒント】
スマホで写真を撮るときは、ポーズよりも“表情”を重視しましょう。後から写真を見返した時に、その瞬間の幸福感を思い出しやすくなります。
🪶 ④ 旅の終わりに、“ありがとう”を伝える
旅の終わりには、「無事に行けてよかったね」「一緒に行けてうれしかった」
そんな言葉を、ご本人にも、自分自身にもかけてあげましょう。
旅行は思い通りにいかないこともあります。
でも、その中で笑ったり、支え合ったりした時間こそが、家族の絆になります。
🌿【実践ヒント】
「また行こうね」という言葉は、未来への希望を育てます。完璧でなくてもいい。思い出は、“一緒に過ごした安心感”の中に生まれます。
認知症の方との旅行は、たしかに手間がかかります。
でも、その準備や工夫の一つひとつが、
ご本人と家族の絆を深める時間でもあります。
旅行が終わっても、
「楽しかったね」という感情は、心の中にちゃんと残ります。
✈️ 今日の準備が、明日の笑顔を守る。
そんな気持ちで、
ゆっくりと“やさしい旅”を計画してみてください。
🌷 関連記事でさらに深める
🔍 家族が認知症になったとき|認知症の方とのかかわり方の8つの指針
認知症家族の方がご本人といっしょに過ごしていく上で重要になる指針を紹介
👉 認知症の方と歩むための8つの指針
🧠 認知症とは|認知症についての一般的な知識を紹介
認知症について。原因や症状などを紹介
👉認知症について知る
🧠 介護する家族の負担を知る|介護者が直面する6つの負担
介護中に生じる問題を6つの側面から解説。
👉 家族の問題について知る
🌿 がんばりすぎて疲れた脳を、やさしく整えませんか?
メルマガでは、50代女性のための
“脳を休ませる習慣”やセルフケアPDF特典をお届けしています。
登録特典:マインドフル脳リカバリー実践シート









