認知症の方との旅行を安心に|家族が知っておきたい注意点と準備のコツ
2026/05/05
目次
「昔のように、家族みんなで旅行に行けたら――」
そう思っても、
認知症のあるご家族との旅行には、どうしても不安がつきまといます。
「移動で疲れすぎないだろうか」
「慣れない場所で混乱しないだろうか」
「トイレや食事は大丈夫だろうか」
「迷子になったり、急に帰りたがったりしないだろうか」
そんな心配が重なると、
「やっぱり、もう旅行は難しいのかもしれない」
と、出かける前からあきらめたくなることもあるかもしれません。
けれど実際には、
行き先や過ごし方を工夫し、準備を少し丁寧にすることで、
認知症のある方と一緒に旅行を楽しめるケースは少なくありません。
旅行は、単なる“お出かけ”ではなく、
ご本人にとって気分転換になったり、
家族と一緒に安心して過ごす時間になったりすることがあります。
たとえ旅の出来事を細かく覚えていなくても、
そのとき感じた「楽しかった」「安心した」「一緒にいられてうれしかった」という気持ちは、心にやさしく残ることがあります。
一方で、旅行はいつもと違う環境に身を置くことでもあります。
移動、気温の変化、人混み、宿泊先での戸惑い――
こうした刺激は、認知症のある方にとって想像以上に負担になることもあります。
だからこそ大切なのは、
「行くか、行かないか」をすぐに決めることではなく、
どうすれば安心して過ごしやすい旅になるかを考えることです。
この記事では、医師の立場から、
- 認知症の方との旅行で特に気をつけたい3つの注意点
- トラブルを防ぐための事前準備
- 旅先で安心感を高める声かけや工夫
を、できるだけわかりやすく整理してご紹介します。
「もう無理かも」と決めてしまう前に、
そのご家族に合った“やさしい旅の形”をいっしょに考えてみませんか。
認知症のある方との旅行では、
「行けるかどうか」だけでなく、
どうすれば安心して過ごしやすいかを考えることが大切です。
旅行そのものが悪いわけではありません。
むしろ、ご本人にとって気分転換になったり、
家族との穏やかな時間になったりすることもあります。
一方で、移動や人混み、慣れない宿泊先など、
旅には日常とは違う刺激がたくさんあります。
その刺激が、疲れや混乱、不安につながることもあるため、
まずは大きく3つのポイントを押さえておきましょう。
① 疲れさせすぎない
認知症のある方は、旅行を楽しんでいるように見えても、
慣れない環境に適応するだけで脳が多くのエネルギーを使います。
普段よりも周囲を見回し、状況を理解しようとするため、
外出先では想像以上に疲れやすくなります。
その結果、
- ぼんやりして注意が散漫になる
- 小さな段差でつまずきやすくなる
- 不機嫌になる
- 眠そうにする
- 返事が少なくなる
といった変化が見られることがあります。
疲れが強くなると、一時的に混乱が強まったり、
旅先で不安定になったりすることもあります。
だからこそ、旅行を成功させるいちばん大きなコツは、
「予定を詰め込みすぎないこと」です。
たとえば、
- 長時間の移動は避け、途中で休憩を入れる
- 観光地を「ひとつ減らす」勇気を持つ
- 予定どおりに進まなくても大丈夫な余白をつくる
- 「今日はここまででも十分」と考える
といった工夫が役立ちます。
もしご本人が「自分のせいで予定が変わった」と気にしているようなら、
「私たちもちょうど少し休みたかったの」
「このゆっくりプランも楽しそうだね」
と、いっしょに楽しんでいることを言葉で伝えてあげましょう。
無理をしない旅は、手を抜いた旅ではありません。
ご本人の安心を守るための、やさしい旅の形です。
② 混乱や不安を防ぐ工夫をしておこう
認知症があると旅行中に、
「なぜここにいるのか」
「どこへ向かっているのか」が
一時的にわからなくなることがあります。
それは単なる物忘れというより、
いつもと違う環境の中で、
状況をつかむことが難しくなっている状態と考えたほうが自然です。
特に、
- 目的地が変わる
- 乗り物を乗り継ぐ
- 宿泊先で目が覚める
- 人が多い場所に行く
といった場面では、不安や混乱が強まりやすくなります。
こうしたときに役立つのが、
“繰り返し伝える・見せる”サポートです。
たとえば、
- 目的地の写真やパンフレットをいっしょに見る
- 簡単な行程表をつくる
- 「今は○○に向かっているところだよ」とこまめに伝える
- 「ここで少し休もうね」と今の状況を短く伝える
といった工夫です。
また、宿泊先で朝起きたときに
「ここはどこ?」と不安になることもあります。
そんなときには、正しく説明しようとするよりも、
- ご本人の好きなお菓子を渡す
- 家族旅行の写真を見せる
- 落ち着いた声で「大丈夫だよ、いっしょにいるよ」と伝える
といった安心の手がかりが役立つことがあります。
旅行先では、「ちゃんと理解してもらうこと」より、
安心してもらうことを先に考える。
この視点があるだけで、旅の空気はぐっとやわらかくなります
③ 家族も無理をしすぎない
認知症のある方との旅行では、
ご本人だけでなく、
同行する家族もかなり気を張りやすいものです。
体調はどうか。
今、疲れていないか。
迷わないか。
混乱していないか。
――こうしたことに目を配りながら旅行をするのは、思っている以上にエネルギーがいります。
せっかく準備して出かけたのに、
- 思ったほど喜んでくれなかった
- 途中で眠ってしまった
- 帰ったらすぐ忘れてしまった
そんなことがあると、少しがっかりしてしまうこともあるでしょう。
でも、それはとても自然な気持ちです。
けれど、たとえ出来事の細かい記憶が残りにくくても、
そのときに感じた
「安心した」
「うれしかった」
「一緒で楽しかった」
という気持ちは、やさしく残ることがあります。
つまり、旅行の目的は
“完璧な思い出を残すこと”ではなく、安心して一緒に過ごす時間を持つこと”
とも言えるのです。
だからこそ、家族も
- 予定どおりにいかなくてもよい
- 少し早めに切り上げてもよい
- 休む時間が多くてもよい
- “旅行をこなす”のではなく、“一緒に過ごす”ことを大切にする
という気持ちでいて大丈夫です。
がんばりすぎないことは、手を抜くことではありません。
ご本人にも家族にも無理のない旅にするための、大切な工夫です。
次の章では、こうした3つの注意点をふまえて、
旅先でのトラブルを防ぐための事前準備チェックリストを、
より具体的に整理していきます。
🧳 第2章|トラブルを防ぐための事前準備チェックリスト
認知症のある方との旅行では、
「何か起きたらどうしよう」と不安になりやすいものです。
けれど実際には、旅先のトラブルの多くは、
出発前に少し準備しておくことで軽くできることがあります。
第1章で見てきたように、旅行では
- 疲れすぎないこと、
- 混乱や不安を防ぐこと、
- 家族も無理をしすぎないこと
が大切です。
そのために役立つのが、
“想定外を減らす準備”です。
ここでは、旅先で起こりやすい5つの場面ごとに、
事前に確認しておきたいポイントを整理していきます。
🩺 1. 持病・体調トラブルに備える
認知症のある方は、体調の変化があっても、
それをうまく言葉で伝えられないことがあります。
そのため、
- なんとなく元気がない
- 表情がいつもより乏しい
- 食欲が落ちている
- 会話の反応が鈍い
- 歩くのを嫌がる
といった、
“いつもとの違い”として体調不良が見えることがあります。
旅行中は、
移動や気温差、睡眠の乱れ、水分不足なども重なりやすいため、
普段より少し慎重なくらいでちょうどよいことも少なくありません。
旅行前にしておきたい準備
- かかりつけ医に旅行の予定を相談しておく
- 常用薬・頓服薬は少し多めに持っていく
- お薬手帳、健康保険証を忘れずに持参する
- 持病や緊急連絡先をメモにして携帯する
- 飲み物や塩分補給など、脱水対策を準備する
- 長時間移動のときは、体を伸ばす休憩時間を確保する
💡医師からのひとこと
認知症のある方は、「痛い」「苦しい」「気持ち悪い」と訴えにくいことがあります。症状そのものより、表情・食欲・会話の調子・歩き方など、 “いつもと違うサイン”をよく見ておきましょう。
💭 2. 不安・混乱に備える
旅行中は、いつもと違う景色や流れの中で、
一時的に不安や混乱が強まることがあります。
たとえば、
- ここがどこかわからなくなる
- なぜ移動しているのかわからなくなる
- 宿泊先で目が覚めたときに戸惑う
- 人の多い場所で落ち着かなくなる
といったことです。
こうしたときに大切なのは、
正しく理解してもらうことより、
安心できる手がかりを用意しておくことです。
あると安心な準備
- ご本人が好きな写真、お菓子、音楽などの“安心アイテム”
- 旅程を簡単にまとめた行程表
- 行き先の写真やパンフレット
- 移動中に「今は○○に向かっているよ」と伝えるためのメモ
- 予定どおりにいかなくても対応できる“プランB”
💬安心のコツ
混乱しているときは、理由を詳しく説明するより、
「大丈夫、一緒にいるよ」
「ここに来られてうれしいね」
といった、安心感につながる声かけのほうが届きやすいことがあります。
🚻 3. 排泄に備える
普段は問題がない方でも、
旅行中は環境の変化や緊張で排泄のリズムが乱れやすくなります。
また、恥ずかしさや遠慮から、
「トイレに行きたい」と言い出せず、我慢してしまうこともあります。
排泄の失敗は、
ご本人のプライドを傷つけやすい場面でもあるため、
“失敗させない”より、“失敗しても大丈夫にしておく”視点が大切です。
事前にしておきたい準備
- トイレの場所を事前に調べておく
- こまめに「念のため寄っておこうか」と声をかける
- 替えの下着や衣類を持参する
- 必要に応じて失禁パッドを持っていく
- においや汚れに備えて小型の消臭袋を用意する
🌿心のケアも大切
もし失敗があっても、「大丈夫だよ」
「気にしなくていいよ」
と、恥ずかしさを和らげる言葉が支えになります。
🧭 4. 徘徊・迷子に備える
観光地や宿泊施設では、
ほんの一瞬のすれ違いが迷子や徘徊につながることがあります。
特に夜間や、人の多い場所では、
同行者が少し目を離しただけでも危険が生じることがあります。
だからこそ大切なのは、
「起きないように願う」だけでなく、
起きたときに落ち着いて対応できる準備です。
備えておきたいこと
- GPS機能付きの持ち物を活用する
- 名前と連絡先を書いたネームプレートをつける
- 当日の服装をスマホで撮影しておく
- 宿泊先スタッフに「認知症の方が同行している」と伝えておく
- ご本人が嫌がらない形で、身元確認できる工夫をしておく
🔒ポイント
万一の時も「準備していたから落ち着いて対応できた」と思えるだけで、心の負担は大きく違います。ご本人が嫌がらない形で、身元確認ができる工夫を。
🦽 5. 移動サポートに備える
普段は杖や手すりで歩ける方でも、
旅先では疲れや刺激の多さから、足取りが不安定になることがあります。
そのため、
「普段より少し上のサポート」を準備しておくことが、
旅行全体の安心につながります。
移動を楽にする準備
- シルバーカーや車いすなど、補助具を検討する
- 宿泊先や観光地のバリアフリー情報を事前に確認する
- スロープ、トイレ、エレベーターの有無を調べる
- 移動距離が長いときはタクシー利用も考える
- 段差や階段が多い場所は、無理に全部回ろうとしない
💡安心のヒント
「少し贅沢かな」と思うくらいのサポートでも、安全に笑顔で過ごせるなら十分価値があります。
🧠医師からのアドバイス
認知症のある方との旅行では、
準備する時間そのものが大切なコミュニケーションになります。
一緒にパンフレットを見る。
荷造りをする。
「どんな景色が見られるかな」と話す。
そうした時間は、ご本人の中に
“これから何か楽しいことがある”
という前向きな気持ちを育ててくれます。
次の章では、
🌿 「旅をもっと楽しむための声かけ・工夫」として、
安心しながら笑顔を引き出すコミュニケーションのコツを紹介します。
🌿 第3章|旅をもっと楽しむための声かけ・工夫
旅行の目的は、
「どこへ行ったか」や「何をしたか」だけではありません。
認知症のある方との旅では、
むしろその時間をどう感じたかのほうが、ずっと大切なことがあります。
きれいな景色を見たこと。
一緒に食事をしたこと。
家族にやさしく声をかけてもらったこと。
たとえあとで細かい出来事を思い出せなくても、
そのときに感じた
「安心した」
「楽しかった」
「うれしかった」
という気持ちは、やさしく残ることがあります。
だからこそ、旅先では
“うまく過ごすこと”より、“安心して過ごせること”を大切にしたいところです。
ここでは、旅をもっと楽しみやすくするための声かけや工夫を整理していきます。
💬 ① 「覚えていてね」より、「今が楽しいね」
旅行中、ご本人がさっきのことを忘れてしまったり、
同じ質問を繰り返したりすることは珍しくありません。
そんなとき、家族はつい
- 「さっきも言ったよ」
- 「覚えてないの?」
- 「ここに来たこと、わかる?」
と確認したくなることがあります。
でも、そのたびに記憶を取り戻してもらおうとすると、
ご本人は「できていない自分」を感じて、
不安になったり、気まずくなったりすることがあります。
旅先で大切なのは、
記憶を正すことより、安心を保つことです。
たとえば、
- 「楽しいね」
- 「いい景色だね」
- 「一緒に来られてうれしいね」
- 「この時間、気持ちいいね」
といった、
“今の気持ち”に寄り添う言葉は、ご本人の心を落ち着かせやすくします。
声かけの例
- 「覚えてる?」ではなく
→ 「きれいだね」 - 「さっきも説明したよ」ではなく
→ 「今はここで休んでいるよ」 - 「違うよ」ではなく
→ 「大丈夫、一緒にいるよ」
旅先では、正しさより安心。
この意識があるだけで、空気がぐっとやわらかくなります。
🧠脳科学のポイント
認知症では新しい出来事を覚えにくくなっても、感情に関わる働きは比較的保たれることがあります。そのため、その場で感じた安心感や幸福感は、気分の安定につながりやすいのです。
🌞 ② 「できること」を活かすと、笑顔が増える
旅行では、家族がつい
「全部サポートしなきゃ」
と思いやすくなります。
もちろん安全のための支えは必要ですが、
何でも先回りしすぎると、ご本人が
「自分は何もできない」
と感じてしまうこともあります。
だからこそ、旅先では“できること”を少し活かす工夫が役立ちます。
たとえば、
- 荷物を持ってもらう
- チケットやパンフレットを一緒に見る
- 写真を撮る場面で立ち位置を選んでもらう
- 「次はどちらを見たい?」と選んでもらう
- お茶を飲む場所を一緒に決める
といった、小さな参加です。
こうした体験は、
「手伝ってもらう」ではなく、
“一緒に旅をしている”実感につながります。
また、自分が役に立っている、自分も選べている、という感覚は、
安心感や意欲を支えることがあります。
💡ポイント
大切なのは、「どこまで一人でできるか」を試すことではなく、一緒に楽しめる形で参加してもらうことです。
🎵 ③ 「五感」を使うと、旅の心地よさが残りやすい
認知症のある方にとっては、
言葉で理解すること以上に、
その場の空気や感触、音や香りが印象に残ることがあります。
たとえば旅先では、
- 風の気持ちよさ
- 花や木の香り
- 温泉やお茶のあたたかさ
- 鳥の声や波の音
- やわらかい日差し
といった五感の刺激が、やさしい思い出につながることがあります。
そのため、
- 「風が気持ちいいね」
- 「この香り、いいね」
- 「あたたかくてほっとするね」
- 「静かで落ち着くね」
といった一言を添えるだけでも、
その時間の心地よさが、より深く感じられやすくなります。
また、写真を撮るときも、
「きれいに写すこと」より、
そのときの表情や空気感を残すことを意識すると、
あとから家族で見返したときにも、やさしい余韻が残りやすくなります。
🌿実践ヒント
観光を増やすより、「気持ちいい」「おいしい」「ほっとする」
を感じられる時間を少し増やすほうが、
認知症のある方には合っていることも少なくありません。
🪶 ④ 旅の終わりに、“ありがとう”を伝える
旅行は、思いどおりにいかないこともあります。
予定どおりに進まない。
途中で疲れて休む。
同じことを何度も聞かれる。
せっかく来たのに、すぐ帰りたくなる。
そんなことがあると、家族もどこかで
「これでよかったのかな」
と感じることがあるかもしれません。
けれど、その中で
- 一緒に笑えたこと
- 無事に帰ってこられたこと
- 途中で休みながらでも過ごせたこと
- 支え合って一日を終えられたこと
それ自体が、十分に大切な旅の時間です。
だから旅の終わりには、
- 「一緒に来られてよかったね」
- 「今日はありがとう」
- 「無事に行けてよかったね」
- 「また行けたらいいね」
と、ご本人にも、自分たちにも、
ねぎらいの言葉をかけることをおすすめします。
🌿実践ヒント
「また行こうね」という言葉は、次の旅行の約束というより、
これからも一緒に過ごしていこうね、という安心のメッセージにもなります。
🌸 まとめ|“安心”を準備することが、いちばんの思い出になる
認知症のある方との旅行は、
たしかに準備も気づかいも必要です。
けれど、その準備や工夫のひとつひとつが、
ご本人を守るだけでなく、
家族の不安をやわらげることにもつながります。
旅行を楽しめるかどうかは、
特別な場所へ行けるかではなく、
ご本人が安心して過ごせるか、家族が無理なく支えられるかで大きく変わります。
そして、たとえ旅の細かな出来事を忘れてしまっても、
「安心した」
「一緒でうれしかった」
「楽しかった」
という感情は、心の中にやさしく残ることがあります。
だからこそ、認知症のある方との旅行でいちばん大切なのは、
完璧な計画を立てることではなく、
安心して過ごせる旅の形を整えることです。
今日の準備が、明日の笑顔を守る。
そんな気持ちで、
自分たちに合った“やさしい旅”を、ゆっくり考えてみてください。
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