幼少期のストレスは大人になって敏感な腸になる?③
2020/09/03
出産時に赤ちゃんが初めて触れる菌はとても大事なものです。
赤ちゃんは生まれる時お母さんの産道を通ります。
母親は出産が近くなると膣内の腸内細菌叢が変化します。
様々な種類の細菌が住みついていた膣内ですが、この時期は特に乳酸菌類が増えます。
自然分娩で生まれた赤ちゃんはこの乳酸菌を多く含む細菌叢にさらされることになります。
この母親から得た乳酸菌類は母乳に含まれる乳糖や特殊な炭水化物の代謝分解します。
母乳にはプレバイオティクスという特定の腸内細菌を増やす物質が含まれます。複合炭水化物のオリゴ糖やHMOと呼ばれる炭水化物です。HMOは本来人は腸では消化できません。
HMOは小腸末端や大腸で乳酸菌類によって短鎖脂肪酸と他の代謝産物に分解され腸に吸収されていきます。
赤ちゃんが母乳を飲むことで腸内の乳酸菌類は数が増えていきます。お母さんからもらった細菌のおかげで赤ちゃんは母乳から効率よく栄養を受け取ることができる様になります。
これは脳の成長にも大きく寄与しています。実際に母乳で育つ期間が長いほど脳が大きく発達しているとの報告もあります。
また、乳酸菌が増えることで他の有害な細菌の成長を妨げ、まだ免疫機能の整っていない乳児の腸内環境の調整と感染防御に役立つのです。
しかし、妊娠中の母親がストレスを受けると、膣内の細菌叢の構成が変化します。
特に乳酸菌が減少します。乳酸菌の減少は膣内の酸性度を変化させます。すると乳酸菌以外の菌が増えていきます。結果的に出産時に母親から受け渡される乳酸菌の数が少なくなります。
マウスの実験では、母親がストレスを受けた場合、新生児の脳の発達を促進させるアミノ酸が不足していることがわかっています。ひょっとすると、腸内細菌が作る代謝産物に影響されているのかもしれません。
また人が帝王切開の場合、乳酸菌が乳児の腸内でコロニーを形成するまでに通常よりも時間がかかります。
直接母親から受け渡される乳酸菌との接触がないことが関係しているでしょう。
また、クロストリジウム・ディフィシルが腸内に蔓延りやすくなります。このクロストリジウムはストレスにさらされた時、腸内細菌叢のバランスを崩し優位となり腸を攻撃しやすくなります。
また母親が周産期に抗生物質を使用することで膣内の細菌叢が乱れていたり、子が幼少期に抗生物質により腸内細菌叢が撹乱されると長期的に腸内細菌が不安定になります。
人は腸内細菌は3歳ぐらいまでは多様性が低く、それ以降成長すると共に徐々に種類を増やし定着し安定していきます。
腸内の住み着きやすさ、腸内で優位に働くものなど人によって腸内細菌のバランスに違いが出てきます。
乳酸菌類は母乳の代謝吸収に有効でしたが、それ以外の細菌も食事からとった栄養を腸で吸収しやすい形に変化させる役割を持ちます。
以前(ストレスがあるとどんなものを食べたくなる?で)、脂肪を分解するファーミキュテス門、プロテオバクテリア門がありました。脂肪分を多くとるとこれらが増殖して腸や脳で炎症を起こしやすくなることをお話ししました。脂肪分がついたべたくなるのは腸に住み着いている細菌の影響かもしれません。
子供の頃から食べている食べ物の影響や子供のストレスによって住み着きやすい腸内細菌のバランスが変わってくるのかもしれません。
人の腸内細菌のバランスは人によって全く異なります。
腸内細菌が作る代謝産物は脳の発達や神経同士の連絡をするシグナルを作ります。
腸内細菌の代謝産物が脳へ影響し、脳で感じた感情が腸の動きに影響するといった相互関係ができます。リラックスすれば脳からの腸の連絡は安定したものですが、ストレスが加われば、腸の活動を過敏にしました。
リラックスを促すホルモン、セロトニンにも影響します。ある種の腸内細菌が作り出した代謝産物をクロム親和性細胞が検知し、迷走神経を介して脳に送られるセロトニン分泌を増やします。
そう考えると腸内細菌が心身の安定によく関わっていることがわかります。
前回②では母親のストレスの影響で子供の性格性質が変化したり、腸が敏感になるお話をしました。
腸内細菌の観点からも母親のメンタルヘルスが将来の子供の健康にいかに重要であるかがわかります。
これから出産を控えている人はストレスを溜めない生活を心がけましょう。
それから、出産方法についてです。腸内細菌の獲得の面では自然分娩が望ましいと考えます。
しかし実際にはそうもいかないこともあります。
昔と比較し安全に子供が生まれるようになった背景には医療の進歩があります。
昔であれば無事に生まれてくることができなかったことも多くありました。
現在は多産も増えていますし、様々な影響で分娩時の母子の負担が大きくなる場合があります。そうなると必ずしも自然分娩が良いわけではありません。
今回の話を読んで自分は帝王切開で子供を産んだことや子供を母乳で育てられなかったことを悲観する必要はありません。
安全に子供を出産するためにはやむおえないことも十分あります。
確かに良性の細菌の獲得の面で不利かもしれません。
しかし子供の成長は出産や母乳での育成だけが全てではなく、様々な要因が影響します。
子供は母親の愛情、父親兄弟祖父母、家族の愛情によって情動を形成していきます。
赤ちゃんもお母さんも周りの家族もみんながリラックスして伸び伸びを過ごせていれば、赤ちゃんにとっても赤ちゃんの腸にとっても良い環境になるかもしれません。
脳がリラックスすれば、腸に送られるシグナルも安定し、腸にとっていい菌がすみつきやすくなるかもしれません。
いずれにせよ、現在の食生活が偏りがちな方は腸内細菌も偏っているかもしれません。
まずは、自分がどんなものを食べているか意識をすることです。
ストレスが多い時どんなものを食べているでしょうか?
それから、より自然なもの(無農薬のもの)、人工的なものが少ない方がいいでしょう。
どの国でも、発酵食品があります。日本にももちろんありますよね。うまく活用して腸内細菌のバランスを整えましょう。
遺伝子学的には日本人に馴染みのある食べ物の方が消化吸収に有利かもしれません。
楽しみながら、お腹の中と体の健康を育てていきましょう。