ある肺がんの患者さまを診て思ったこと
2020/05/09
ヘテロクリニックの木ノ本です。
私は、ときどき別のクリニックで訪問診療をしています。
自宅に帰ったばかりの肺がんのターミナルの患者さまを診察する機会がありました。
今は新型コロナウイルス感染症の影響で、どの病院でも入院患者さまへの面会が制限されています。
この方が入院されていた病院も感染拡大防止のため面会が制限されていました。
「最期を家族と過ごしたい」という想いから在宅での生活を選び、自宅退院されてきたのです。
肺がんのターミナルということもあり、酸素濃度も低く、在宅酸素療法を行うことになりました。
それでも、時には呼吸が苦しくなることもあります。
残された時間を家族と有意義に過ごすために帰ってきたはずでした。
ところが、その方は家に帰ってから一日中テレビを見て過ごされ、新型コロナウイルス感染症の話題をチェックされているのです。
ある日、訪問診療に訪れたら、「症状が似ているんです。コロナじゃないでしょうか?」と心配されて尋ねられました。
確かに、咳も出ますし、呼吸苦もあります。
病状的にも、この方が新型コロナウイルス感染症にかかられたら命に係わるでしょう。
ただ、その方は、ほぼベッド上の生活です。
家族の方が買い物に外に出かけたり、私たちや訪問看護が自宅にうかがうこともありますが、感染するリスクとしては極めて低い方です。
お熱もないですし、現在ある咳や呼吸苦も、もともとあった肺がんの症状が少し悪化してきた感じです。
「テレビを全く見るな」とはいいませんが、一日中テレビを見て過ごし、コロナについて心配する。
当初の「最期を家族と穏やかに過ごしたい」という想いはどこへいったのでしょうか。
まだ、もともとある肺がんについて心配するのなら理解もできますが、そちらについては全く話題にもしません。
家族は「先生からコロナじゃないといってもらえれば安心するから」と言います。
「一日中、テレビを見るのは止めた方がいいのでは?」とお勧めしたのですが、私たちが帰るときも、まだテレビはつけられたままでした。
この状況を客観的にみたら、おかしいと思うかもしれませんが、本人はいたってまじめです。
ここまで極端ではないかもしれませんが、テレビで毎日流れる情報によって不安に飲み込まれている人は案外多いのように思います。
こういう社会情勢のときは、不安はあると思って対処したほうが無難です。
不安は大きくなりすぎると、自分自身では対処できなくなります。
一人で抱えきれないと思ったら、感情カウンセリングをご利用ください。