認知症の周辺症状(BPSD)とは? 不安・徘徊・帰宅願望・暴言などの原因と対応をやさしく解説
2026/02/24
目次
はじめに
「急に落ち着かなくなった」
「怒りっぽくなったみたいで、怖い」
「“家に帰る”と言って、何度も外に出ようとする」
――認知症の介護では、
こうした変化に直面して、戸惑いと疲れが一気に押し寄せることがあります。
そして多くのご家族が、
心のどこかで自分を責めてしまいます。
「私の言い方が悪かったのかな」
「もっと優しくできれば…」
「どう対応すれば正解なのかわからない」
頑張っているほど、
苦しくなる瞬間があるのです。
こうした症状は、
認知症の周辺症状(BPSD)と呼ばれます。
不安、徘徊、帰宅願望、介護拒否、暴言・暴力、昼夜逆転、失禁、異食など――
“困った行動”として見えてしまいやすい一方で、
実は多くの場合、本人の中では不安・混乱・つらさが高まっているサインでもあります。
認知症になると、
記憶や理解、状況判断の力が少しずつ低下していきます。
その結果、本人にとっては
「何が起きているのか」
「これから何が起こるのか」
がつかみにくくなり、日常そのものが不安定になりやすくなります。
そこに、
体調不良(痛み・便秘・脱水・感染など)や
環境の変化(入院・引っ越し・同居など)、
周囲との関わり方が重なると、周辺症状が強く出ることがあります。
つまりBPSDは、
“性格が変わった”のでも、“困らせたい”のでもなく、背景があって起きていることが多いのです。
もちろん、家族として
「わかっていてもつらい」という現実はあります。
だからこそ大切なのは、
ひとりで抱え込まず、
原因の当たりをつけて、安心につながる工夫を積み重ねることです。
この記事は、
周辺症状を一つひとつ詳しく説明する“辞典”ではなく、
「今、目の前で起きていること」を整理して、
次に読むべき記事・取るべき対応へ迷わず進むための“地図”としてまとめています。
気になる症状から読んでも大丈夫です。
そして途中で、
「これは家庭だけでは難しいかもしれない」と感じたら、
医療や支援につなぐことも、ぜひ考慮に入れてみて下さい。
それは、
本人の安心と、ご家族の安全を守るための、自然な選択肢です。
まずはここから、
周辺症状(BPSD)の全体像と、
共通する背景を一緒に整理していきましょう。
認知症の周辺症状(BPSD)は、「困らせたい行動」ではなく、不安や混乱のサインとして出てくることが少なくありません。
大切なのは、症状そのものだけを見るのではなく、背景にある原因(不安・体調・環境・関わり方)を一緒に考えることです。
このページでは、周辺症状の全体像を整理しながら、気になる症状の詳しい記事へ進める“地図”としてご活用いただけるようにまとめています。
第1章|認知症の周辺症状(BPSD)とは何か
認知症の症状というと、
「もの忘れ」がまず思い浮かぶ方が多いかもしれません。
もちろん、
もの忘れ(記憶障害)は代表的な症状のひとつです。
ただ、実際にご家族が介護の中で強く困りやすいのは、
“もの忘れそのもの”よりも、
その周辺で起こる行動や気持ちの変化であることが少なくありません。
たとえば、
- 不安が強くなる
- 急に怒りっぽくなる
- 「帰りたい」と何度も訴える
- 介護を拒否する
- 落ち着かず歩き回る(徘徊)
といった変化です。
こうした症状は、
認知症の「周辺症状」と呼ばれ、
医療・介護の現場では BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:行動・心理症状)と呼ばれています。
ここで大切なのは、
これらを単なる“困った行動”として見るのではなく、
本人からのサインとして読み解く視点を持つことです。
「中核症状」と「周辺症状」の違い
認知症の症状は、大きく分けると
「中核症状」 と 「周辺症状(BPSD)」 に分けて考えると整理しやすくなります。
● 中核症状
中核症状は、脳の神経細胞の障害によって起こる、認知症の基本的な症状です。
たとえば、
- 記憶障害(新しいことを覚えにくい)
- 見当識障害(今がいつ・ここがどこか分かりにくい)
- 判断力低下(状況に合わせた判断が難しい)
- 失語・失行・失認(言葉・動作・認識の障害)
などがあります。
これらは、認知症の土台となる変化です。
● 周辺症状(BPSD)
一方で周辺症状は、こうした中核症状を背景にしながら、
本人の不安・体調・環境・関わり方 などが重なって出てくる症状です。
たとえば、
- 不安
- 徘徊
- 帰宅願望
- 暴言・暴力
- 介護拒否
- 昼夜逆転
- 異食
- 失禁に伴う不穏 など
がこれにあたります。
つまり、周辺症状は
「認知症だから必ず出る」ものではなく、
出やすくなる条件が重なったときに表れやすい症状 です。
この整理ができると、見え方が少し変わります。
「どうしてこんなことをするの?」
ではなく、
「何が重なって、こうなっているのだろう?」
と考えやすくなるからです。
BPSDは“人によって出方が違う”
BPSDを考えるときに、もうひとつ大切なのが、
“人によって出方がかなり違う” という点です。
同じ「認知症」という診断名でも、
- 不安が前面に出る人
- 怒りっぽさが目立つ人
- 「帰りたい」が強く出る人
- 夜になると混乱しやすい人
など、症状の出方は人それぞれです。
さらに、同じ人でも、
- その日の体調
- 時間帯(特に夕方〜夜)
- 関わる相手
- 周囲の環境(音、明るさ、人の出入り)
- 予定の変更や環境の変化
によって、出方が大きく変わることがあります。
そのため、介護をしていると
「昨日は大丈夫だったのに、今日はうまくいかない」
ということが普通に起こります。
これは、家族の対応が悪いからではありません。
BPSDは、本人の中の状態と周囲の条件が重なって変化するため、
“日によって揺れる”のが自然な症状 でもあるのです。
だからこそ、うまくいかなかった日に必要なのは、
「もっとちゃんとしなきゃ」ではなく、
“何が重なっていたか”を振り返る視点 です。
- 疲れていなかったか
- 空腹や便秘はなかったか
- いつもより騒がしくなかったか
- 急かす関わりになっていなかったか
こうした視点を持てるようになると、
BPSDは「ただ大変なもの」から、
対応の糸口を見つけられるもの に少しずつ変わっていきます。
第2章|まず知っておきたい「BPSDの共通する背景」
BPSD(周辺症状)は、
本人の性格や“わざと”では説明できないことがほとんどです。
多くの場合、
「中核症状(記憶・理解・判断などの低下)」を土台にして、
いくつかの条件が重なったときに表れやすくなる症状です。
言い換えると、
BPSDは“突然の問題行動”というより、
「本人の中のしんどさが、言葉以外の形で出ているサイン」でもあります。
ここでは、
症状の種類に関わらず共通しやすい背景を、5つの視点で整理します。
この視点を持っておくと、
不安・徘徊・帰宅願望・介護拒否・暴言など、
どの症状にも応用できます。
不安・混乱(わからないことが増える)
認知症では、
本人にとって「わからない」が少しずつ増えていきます。
- ここがどこか分からない
- 今から何をされるのか分からない
- 目の前の人が誰か確信できない
- さっき説明されたことを覚えていない(でも不安だけ残る)
こうした状態は、
本人にとってかなり怖いものです。
私たちでも、
知らない場所でいきなり手を引かれたり、
事情が分からないまま急かされたりしたら不安になります。
BPSDの多くは、
この「分からなさ」→「不安」→「身を守ろうとする反応」の流れの中で出てきます。
- 帰宅願望:安心できる場所に戻ろうとする
- 徘徊:落ち着かず“答え”を探しに動いてしまう
- 介護拒否:何をされるか分からず怖くて拒否する
- 暴言・暴力:追い詰められた状態で防衛反応が出る
「落ち着いて」「大丈夫だから」だけでは届きにくいのは、
本人の中で“根拠の分からない不安”がすでに強くなっていることが多いからです。
環境の変化(入院・引っ越し・同居・部屋替え)
BPSDが強く出やすい代表的なきっかけが、環境の変化です。
- 入院や転院
- 引っ越し・施設入所
- 同居の開始
- 部屋替え、家具の配置換え
- デイサービス利用開始 など
環境が変わると、
本人は「見慣れた手がかり」を失います。
時計・カレンダー・家具の位置・生活の流れ・匂い・音…。
そうした“いつものヒント”が減るほど、
不安と混乱が増えやすくなります。
ご家族側は「安全のため」「良かれと思って」動いているのに、
本人側には
「知らない場所に連れてこられた」
「状況が理解できない」
と感じられてしまうことがあるのです。
ここが、介護のつらさが生まれやすいポイントです。
体調不良(痛み・便秘・脱水・感染・睡眠不足)
BPSDを見たとき、
意外なほど見落とされやすいのが体調の要因です。
認知症が進むと、
本人が不調をうまく言葉にできなかったり、
そもそも自覚しにくくなったりします。
特に影響しやすいのは、次のようなものです。
- 痛み(関節痛、頭痛、歯の痛み、褥瘡など)
- 便秘(不穏・怒り・拒否の背景になりやすい)
- 脱水(ぼんやり、混乱、イライラ)
- 感染(風邪、肺炎、尿路感染などで急に悪化することも)
- 睡眠不足(昼夜逆転、夕方以降の不穏につながりやすい)
「急に怒りっぽくなった」
「急に落ち着かない」
そんなときほど、
まずは “体のつらさ” が隠れていないか を見てあげることが大切です。
関わり方の影響(急かす・否定する・叱る)
BPSDは、
関わり方ひとつで強くなることがあります。
もちろんご家族が悪いという話ではなく、
“症状の性質上” 刺激に反応しやすいという意味です。
特に逆効果になりやすいのが、
- 急かす(早くして、今すぐ、なんでできないの)
- 否定する(違うでしょ、それは間違い)
- 叱る・正論で押す(ちゃんとして、分かるでしょ)
本人は、理解や記憶が追いつかない中で必死に状況をつかもうとしています。
そこに強い言い方や否定が入ると、
本人の中では
「責められている」
「危険だ」
「分からないのに追い込まれる」
という感覚が強まり、
結果として不安・怒り・拒否が増えやすくなります。
BPSDの対応は、
正しさの勝負ではなく、
安心の設計に寄せた方がうまくいく場面が多いのです。
時間帯の影響(夕方〜夜に悪化しやすい)
「昼間は比較的落ち着いていたのに、夕方から急にそわそわする」
「夜になると不安が強くなる」
これはBPSDで非常によく見られます。
いわゆる“夕暮れ症候群”として知られている現象です。
夕方〜夜に悪化しやすい理由としては、次のようなものがあります。
- 疲れがたまる(脳も体もエネルギー切れ)
- 光が減って見えにくくなる(影や暗さで不安が増える)
- 家の中が慌ただしくなる(夕食・入浴・家族の出入り)
- 予定が変わりやすい(生活の流れが読みづらくなる)
「夜に荒れる」ように見えても、
実際は “疲れ+不安+環境刺激”が重なっている ことが多い、という理解が役に立ちます。
この章のまとめ|“止める”前に「背景を探る」視点を
BPSDは、
症状そのものを力で止めようとすると、
うまくいかないことが少なくありません。
大切なのはまず、
「何が重なって、この症状が出ているのか?」
という“背景を探る”視点を持つことです。
- 不安や混乱が強くなっていないか
- 環境が変わっていないか
- 体調不良や便秘、痛みが隠れていないか
- 関わり方が刺激になっていないか
- 夕方以降に悪化していないか
この見取り図があるだけで、
不安・徘徊・帰宅願望・暴言・介護拒否などの個別記事を読むときに、
「うちの場合はどこが当てはまりそうか」が見えやすくなります。
そして、ここから先は症状別に、
“背景の読み解き方”と“安心につながる対応”を具体的に整理していきます。
第3章|よくある周辺症状(BPSD)と、まず押さえたい対応の方向性
ここからは、認知症の周辺症状(BPSD)の中でも、
ご家族が特に戸惑いやすい症状を「背景」と「対応の軸」で整理していきます。
大切なのは、どの症状でも共通して
「まず止める」より先に、
「なぜ今それが起きているのか」を考えることです。
同じ症状に見えても、背景は人によって違います。
そのため、対応も「正解がひとつ」ではありません。
ここではまず全体像をつかみ、
必要に応じて詳細記事で深く見ていきましょう。
不安(落ち着かない・何度も確認する)
認知症の方の「不安」は、
BPSDの中でもとても多い症状です。
見た目には、
落ち着かない、
同じことを何度も聞く、
表情がこわばる、
そわそわする
といった形で現れます。
背景には、
- 大切なことを忘れてしまう不安
- 時間や場所の感覚のずれ(見当識障害)
- 言われていることが理解しづらい戸惑い
- 「できなくなってきた」ことへの喪失感
などが重なっていることが少なくありません。
対応の軸は、安心感をつくることです。
- まず否定せずに受け止める
- 短く、わかりやすく伝える
- 落ち着ける環境を整える(音・光・人の出入り)
「正しく説明すること」より、
“この人は自分の味方だ”と感じてもらうことが先に効く場面が多い症状です。
抑うつ気分
認知症のある方では、
気分の落ち込みや元気のなさが目立つことがあります。
見た目には、
- 表情が暗い
- 元気がない
- 悲しそうに見える
- 「自分は役に立たない」といった言葉が増える
- これまで楽しめていたことにも気持ちが向きにくい
といった形で現れることがあります。
背景には、
- できなくなってきたことへの喪失感
- 環境の変化
- 不安や孤独感
- 体調不良
- うつ状態の合併
などが関わっていることがあります。
対応の軸は、
励ましすぎることより、気持ちのつらさに目を向けることです。
- 「元気を出して」と無理に励ましすぎない
- 本人のしんどさを否定しない
- 生活リズムや体調の乱れがないか見る
- 強い落ち込みが続くときは医療につなぐ
抑うつ気分では、悲しさや苦しさの訴えが前に出やすいのが特徴です。
一方、アパシーでは「自分から始まらない」「反応が乏しい」ことが目立つことがあります。
アパシー(自発性の低下)
アパシーは、
自分から動き出す力や、興味・関心を向ける力が低下した状態です。
ご家族からは、
- 何もしたがらない
- 声をかけないと動かない
- 好きだったことにも関心を示さない
- 反応が薄く、ぼんやりして見える
といった形で気づかれやすい症状です。
背景には、
- 意欲や行動の開始に関わる脳の働きの低下
- 実行機能障害や判断力低下の重なり
- 環境の変化や刺激の少なさ
- 抑うつ状態や体調不良との重なり
などが関わっていることがあります。
対応の軸は、
「やる気を出してもらう」ことより、
動きやすいきっかけを外から作ることです。
- いきなり励ましたり責めたりしない
- 最初の一歩を一緒に作る
- 選択肢を減らす
- 生活の流れを整える
- 小さな役割を残す
アパシーでは、本人が強い苦しさを訴えないことも多いため、
周囲からは「怠けている」と誤解されやすいのが特徴です。
だからこそ、性格の問題ではなく、症状として捉える視点が大切です。
帰宅願望(「家に帰りたい」)
「家に帰りたい」は、
認知症介護でよく見られる訴えのひとつです。
今いる場所が自宅であっても出ることがあり、
ご家族が戸惑いやすい症状でもあります。
背景には、
- 不安が強くなっている
- 見当識のずれで“今ここ”がつかみにくい
- 昔の“安心できた家”の記憶に戻っている
- 夕方〜夜で不安が強まりやすい
といった要因がよくあります。
対応の軸は、
説明で納得させることより、安心を先に届けることです。
- 「帰りたいんだね」と気持ちを受け止める
- 否定して押し返さない
- お茶・写真・なじみの話題などで安心につなげる
- 夕方に悪化しやすい場合は時間帯の対策を考える
帰宅願望は、“困らせる言葉”ではなく、
不安のサインとして捉えると関わり方が変わってきます。
幻視・幻覚(「見えないものが見える」「誰かがいる」と言う)
幻視・幻覚は、
実際には存在しないものが見えたり、感じられたりする症状です。
認知症のある方では、
特に幻視として、
- 「部屋の隅に誰かがいる」
- 「子どもが見える」
- 「虫がいる」
といった形で気づかれることがあります。
背景には、
- 見えたものを正しく認識しにくくなる
- 不安や疲労が強くなる
- 夕方から夜にかけて混乱しやすい
- 体調不良や薬の影響が重なる
などが関わっていることがあります。
対応の軸は、
「正しいかどうか」をすぐに確かめることより、まず安心を取り戻すことです。
- いきなり強く否定しない
- 「怖かったね」と気持ちを受け止める
- まず安全を確認する
- 照明・影・反射・模様など環境を整える
- 別の安心できる話題や行動へそっと切り替える
ご家族には何も見えなくても、
本人にとっては“本当に見えている”ように感じられていることがあります。
そのため、内容を否定する前に、
不安や驚きに目を向けることが大切です。
もの盗られ妄想(「盗ったでしょ」と疑われる)
もの盗られ妄想は、
財布や通帳、現金、鍵などが見当たらないときに、
「誰かが盗った」
「家族が隠した」
と本人が強く確信してしまう症状です。
背景には、
- 記憶障害(自分でしまったことを忘れる)
- 状況を整理しにくい(判断力・見当識のずれ)
- 不安や喪失感(大切なものを失う怖さ)
- 環境の変化(置き場所が変わる、慌ただしい)
などが重なっていることが少なくありません。
対応の軸は、
「正しさを証明する」より先に、安心をつくることです。
- 正面から否定しすぎない(「盗ってない!」の押し返しは逆効果になりやすい)
- まず気持ちを受け止める(「心配なんだね」)
- “一緒に確認する”姿勢にする(短時間で区切る)
- 置き場所をシンプルにして「探さなくていい仕組み」を整える
責められる側が深く傷つきやすい症状でもあるため、
家族が一人で抱え込まないことも重要です。
昼夜逆転(夜に眠れない・日中に眠る)
昼夜逆転は、
本人だけでなくご家族の負担も大きくなりやすい症状です。
夜に眠れず、日中にうとうとすることで、
生活全体のリズムが崩れやすくなります。
背景としては、
- 体内時計の乱れ
- 日中の活動量の低下
- 朝の光不足
- 昼寝の長さ
- 夜の刺激(テレビ、照明、物音、トイレ回数など)
が重なっていることが多くあります。
対応の軸は、1日全体のリズムを整えることです。
- 朝に光をしっかり浴びる
- 日中の活動量を確保する
- 夕方以降の刺激を減らす
- 夜の環境(明るさ・音・室温)を整える
「夜だけなんとかしよう」とすると難しいので、
朝〜昼の過ごし方から整えるのがポイントです。
徘徊(歩き回る・出て行ってしまう)
徘徊は、家族にとって非常に不安の大きい症状です。
ただし、本人にとっては“意味のない行動”ではなく、
何らかの理由や目的があることが多い症状でもあります。
背景には、
- 場所の見当識障害(どこにいるか分かりにくい)
- 不安や落ち着かなさ
- 「帰る」「探す」などの目的行動
- 体を動かしたい、じっとしていられない
- 生活リズムや時間帯の影響
などがあります。
対応の軸は、
ただ止めることではなく、安全確保と背景理解をセットで考えることです。
- まず安全対策(鍵、見守り、連絡先、地域連携)
- 何を求めて動いているのかを観察する
- 不安が強くなる時間帯やきっかけを把握する
- “動きたい気持ち”を別の形で満たせるか考える
徘徊は、
本人の「困りごと」が行動として表れていることが多いため、
背景を読む視点がとても大切です。
介護拒否(食事・入浴・内服など)
介護拒否は、
ご家族が「良かれと思って」していることほど起こりやすく、つらく感じやすい症状です。
食事・入浴・着替え・トイレ・内服など、
生活に必要な場面で起こりやすいのが特徴です。
背景としては、
- 羞恥心(特に入浴・排泄・着替え)
- 自尊心(“できない人扱い”されたくない)
- 不安(何をされるのか分からない)
- 体調不良(痛い、だるい、気分が悪い)
- タイミングの悪さ(眠い、疲れている、気分が乗らない)
などが考えられます。
対応の軸は、無理強いしないことです。
- いきなり始めず、予告する
- 本人のタイミングに合わせる
- 声かけを短く、具体的にする
- 体調不良がないか確認する
- 一度断られたら時間を置く
拒否があると焦りますが、
「拒否の奥にある理由」を探ることで通りやすくなることが多い症状です。
暴言・暴力
暴言・暴力は、
介護者の心身を大きく消耗させる症状です。
頭では「病気の影響」と分かっていても、
つらいものはつらい——その前提で考えることが大切です。
背景には、
- 強い不安や恐怖
- 混乱(状況が理解できない)
- 感情コントロールの低下
- 疲労や睡眠不足
- 痛みや便秘などの体調不良
- 周囲の緊張感の影響
が重なっていることが少なくありません。
対応の軸は、安全確保を最優先にすることです。
- 正面からぶつからない
- 距離を取る
- 興奮しているときに説得しない
- まず場を落ち着かせる
- 介護者自身を守る(交代・外部支援を使う)
暴言・暴力があるときは、
「本人への対応」だけでなく、家族を守る視点も同じくらい重要です。
失禁
認知症の失禁は、
「わざと」ではなく、
認知機能の低下による困りごととして起こることが多い症状です。
ご本人にとっても
羞恥心が強く、言葉にできないつらさにつながりやすいテーマです。
背景としては、
- 尿意が分かりにくい
- トイレの場所が分からない
- 間に合わない
- 脱ぎ着に時間がかかる
- 体調・薬・便秘などの影響
などがあります。
対応の軸は、
尊厳を守ることを前提に、予測と環境調整を行うことです。
- トイレのサインを見つける
- 定期的な声かけ・誘導
- トイレを見つけやすくする
- 脱ぎやすい服にする
- 叱らず、恥をかかせない関わり
失禁の対応では、
「清潔にする」だけでなく「尊厳を守る」という視点がとても大切です。
異食
異食は、
ティッシュや紙、植物、洗剤など、
本来食べ物でないものを口にしてしまう症状です。
誤飲や中毒のリスクがあるため、
BPSDの中でも特に安全面の配慮が必要です。
背景には、
- 失認(食べ物とそうでない物の区別がつきにくい)
- 空腹感(満腹感が伝わりにくい/食べた記憶が抜ける)
- 不安やストレス
- 環境要因(目につく、手が届く場所にある)
などが関わります。
対応の軸は、
安全確保を最優先に、環境を先に整えることです。
- 危険なものを置かない・見えない場所へ
- “手の届く範囲”を見直す
- 食事の時間・場所・流れを整える
- 不安を下げる環境づくり
- 異食が起きたときのパターンを記録する
異食は注意だけでは防ぎにくいため、
「本人を変える」より「環境を変える」発想が有効です。
この章のまとめ|症状ごとに違っても、見るべきポイントは共通しています
ここまで見てきたように、
BPSDにはさまざまな形がありますが、
どの症状にも共通して大切なのは、
- 背景を探る(不安・混乱・体調・環境)
- まず安心をつくる
- 無理に止めるより、安全を確保する
- 家族だけで抱え込まない
という視点です。
次の章では、
こうしたBPSDに向き合うときに、
ご家族が特に迷いやすい
「日常対応でできること」と「医療・介護につなぐ目安」を整理していきます。
家族が無理を抱え込まないために ― 日常対応の限界と、医療・介護につなぐ目安 ―
ここまで、BPSDの背景や対応の方向性を見てきました。
ただ実際の介護では、
わかっていても難しい日があります。
落ち着いて声をかけようと思っていたのに、つい強い言い方になってしまう。
何度も同じことが続いて、心がすり減ってしまう。
「自分の対応が悪いのでは」と責めたくなる。
こうしたつらさは、特別なことではありません。
BPSDへの対応は、
家族の心身の状態にも大きく左右されるからです。
この章では、
「家族が無理を抱え込みすぎないために大切な視点」と、
「一人で抱え込まないための相談先」を整理します。
「うまく対応できない日」があって当然
BPSDの対応には、
いつも同じやり方が通用するわけではありません。
昨日は落ち着いた声かけでうまくいっても、今日はうまくいかない
——そういうことが普通に起こります。
なぜなら、症状の出方は
- 本人の体調
- 時間帯
- 睡眠の状態
- 周囲の環境
- その日の気分や不安の強さ
などで変わるからです。
つまり、うまくいかない日があるのは、
家族の努力不足ではなく、症状の性質そのものでもあります。
大切なのは、
「毎回うまくやる」ことではなく、
うまくいかなかった日にも立て直せることです。
たとえば、
- いったん距離を取る
- 時間を置いて声をかけ直す
- その日は“最低限でよし”にする
- 別の家族や支援者にバトンを渡す
こうした対応も、立派な介護です。
家族の疲労は、症状を悪化させることがある
これはとても大事なポイントです。
BPSDは、
本人の状態だけでなく、
周囲の緊張や疲労の影響を受けやすいことがあります。
介護する側が
- 眠れていない
- 余裕がない
- 不安やイライラが強い
- 「ちゃんとしなきゃ」と追い詰められている
という状態になると、
声のトーンや表情、動きの速さにそれが出ます。
認知症の方は、
言葉の細かい意味がわかりにくくなっていても、
相手の空気や感情の変化には敏感なことが少なくありません。
その結果、
- 不安が強まる
- 拒否が出やすくなる
- 暴言・興奮につながる
- こちらもさらに疲れる
という悪循環が起こることがあります。
ここで大切なのは、
「家族はいつも穏やかでいなければいけない」という話ではありません。
そんなの、現実には到底無理な話です。
そうではなく、
家族の疲労を“本人のケアの一部”として扱うことが大切なのです。
家族が少し休めるだけで、
本人の症状が落ち着くことは本当にあります。
“様子を見る”より先に、医療につないだほうがよいサイン
BPSDは、関わり方や環境調整で軽くなることも多い一方で、
体調不良や薬の影響が背景にある場合は、医療的な確認が必要です。
「認知症だからこういう症状が出る」と決めつけず、
次のような変化があるときは、早めに医療につなぐことを考えましょう。
① いつもと違う変化が“急に”出たとき
- 急に不安・興奮が強くなった
- 急に怒りっぽくなった
- 急に眠れなくなった/昼夜逆転が悪化した
- 急にぼんやりして反応が鈍い
→ これまでの経過と違う「急な変化」は、
感染症・脱水・便秘・痛みなど身体の不調が隠れていることがあります。
② 発熱・痛み・便秘・食欲低下など、体調不良のサインがあるとき
- 熱っぽい
- 咳、痰、息苦しさ
- 尿の回数や色・においの変化
- 便秘が続いている
- お腹を痛がる/顔をしかめる
- 食事・水分が取れていない
→ 認知症の方は、体調不良を言葉でうまく伝えにくいことがあります。
そのぶん、BPSDとして表れている可能性があります。
③ 眠れない状態が続き、本人・家族ともに消耗しているとき
- 夜間の覚醒が続いている
- 夜に歩き回る/家族も眠れない
- 日中の眠気で生活リズムが崩れている
→ 睡眠の問題は、本人の不安や混乱を強めやすく、
家族の疲労も一気にたまりやすい問題です。
早めに相談することで、悪循環を断ちやすくなります。
④ 暴言・暴力・拒否が強く、安全の確保が難しいとき
- 家族への暴力が出る
- 本人が転倒しそうなほど興奮する
- 内服や食事がほとんど入らない
- ケアを進めること自体が危険になっている
→ この段階は「家族の頑張り」で乗り切る範囲を超えていることがあります。
無理をせず、医療・介護の両方に相談して、対応を組み立て直すことが大切です。
⑤ 「家族がもう限界」と感じているとき
- 怒鳴ってしまうことが増えた
- 眠れない・食べられない
- 涙が出る、気力が出ない
- 一人で抱えている感じが強い
→ これは十分に“相談のサイン”です。
本人の症状だけでなく、
家族の限界も医療・介護につなぐ大事な目安です。
受診・相談時に伝えると役立つポイント(ミニ補足)
相談するときは、
次のような情報があると状況が伝わりやすくなります。
- いつ頃から変化が出たか
- どんな場面で起こりやすいか(夕方/入浴前/食後など)
- 何に困っているか(安全、睡眠、食事、介護負担)
- 食事・水分・便通・睡眠の様子
- 最近変わった薬があるか
- 家族の疲労の状況(眠れているか、介護の負担感)
一人で抱え込まないための相談先
BPSDが続くと、
家族だけで対応するのはどうしても限界がきます。
限界まで頑張る前に、外の力を使うことが大切です。
「相談する=悪化した」ではなく、
“今の暮らしを守るための調整”と考えてください。
1)かかりつけ医
まず相談しやすいのが、かかりつけ医です。
BPSDの背景に、
体調不良(便秘・脱水・感染・痛み・睡眠障害など)が隠れていないかを確認できます。
また、症状が強いときには、
- 受診の必要性
- 薬の調整が必要か
- 専門医につないだほうがよいか
といった判断の入口にもなります。
2)ケアマネジャー(介護支援専門員)
すでに介護保険サービスを使っている場合は、
ケアマネジャーさんがとても重要な相談相手です。
- 今の困りごとをどう整理するか
- サービスの回数や種類をどう調整するか
- 家族の負担を減らす組み合わせは何か
を一緒に考えてもらえます。
BPSDは「介護の工夫」で軽くなる部分も多いので、
生活全体を見てくれる存在はかなり頼りになります。
3)地域包括支援センター
「まだ介護保険を使っていない」
「どこに相談したらいいか分からない」
場合は、地域包括支援センターが入口になります。
- 介護保険の相談
- 地域の支援制度
- 認知症相談
- 家族支援の情報
など、
地域で使える資源を教えてもらえます。
“困ってから”より、
困り始めた段階でつながっておくほうが、その後がぐっと楽になります。
4)デイサービス・ショートステイなどの介護サービス
家族の休息を確保する意味でも、介護サービスはとても大切です。
特にBPSDがあると、
家族は「自分が見ていないと心配」と思いやすいのですが、
休めない状態が続くほうが、結果的に家庭全体が苦しくなりやすくなります。
- デイサービス:日中の見守り・活動・生活リズムづくり
- ショートステイ:家族の休息・緊急時対応
- 訪問介護/訪問看護:在宅生活の支援
など、
目的に合わせて使い分けることができます。
「預ける」のではなく、
暮らしを続けるためにチームを作るというイメージで考えると使いやすくなります。
この章のまとめ
BPSDの対応でいちばん大切なのは、
「家族だけで完璧に抱え込まないこと」です。
- うまくいかない日があるのは自然なこと
- 家族の疲労は、本人の不安にもつながりやすい
- 早めの相談は“悪化”ではなく“調整”
- 外の力を借りることは、本人の安心にもつながる
次の章では、
記事全体のまとめとして、
BPSDに向き合うときに大切な視点をもう一度整理しながら、
ご家族へのメッセージをお伝えします。
認知症の周辺症状(BPSD)は、本人の不安・体調・環境・関わり方が重なって強く出ることがあります。
そのため、家族がどれだけ丁寧に関わっていても、うまくいかない日はあります。
また、急な変化やいつもと違う強い症状は、体調不良や薬の影響が隠れているサインのこともあります。
「様子を見る」だけで抱え込まず、医療や介護につなぐことも大切な対応です。
相談することは、悪化のサインではなく、本人と家族を守るための前向きな一歩です。
一人で頑張りすぎず、使える力を一緒に増やしていきましょう。
まとめ|周辺症状(BPSD)は「困った行動」ではなく、“背景のあるサイン”
認知症の周辺症状(BPSD)は、
不安、混乱、体調不良、環境の変化、関わり方の影響など、
さまざまな要因が重なって起こります。
同じ「認知症」という診断名でも、
出やすい症状も、強く出るタイミングも、人によって違います。
また、同じ人でも
その日の体調や時間帯によって、症状の出方は変わります。
そのため大切なのは、
目の前の症状だけを止めようとするのではなく、
「なぜ今、この症状が出ているのだろう?」
と背景を探る視点を持つことです。
「家に帰りたい」と言う
何度も同じことを聞く
怒りっぽくなる
介護を拒否する
夜に眠れない
歩き回る
こうした行動の奥には、
ご本人なりの不安や戸惑い、言葉にしにくい苦しさが隠れていることが少なくありません。
だからこそ、
説明や正論で押さえ込むよりも、
- 安心できる関わり方
- わかりやすい環境づくり
- 体調を整える視点
- 家族が無理をしすぎない工夫
が、結果的に症状をやわらげる近道になることがあります。
そしてもうひとつ大切なのは、
家族だけで抱え込まないことです。
BPSDへの対応は、
毎日の積み重ねだからこそ、
介護する側の心と体にも大きな負担がかかります。
「うまく対応できない日」があるのは自然なことです。
つらさを感じたときは、早めに
- かかりつけ医
- ケアマネジャー
- 地域包括支援センター
- デイサービスやショートステイ
など、周囲の力を借りてください。
相談することは、
悪化のサインではなく、本人と家族を守るための大切なケアです。
このページでは、
BPSDの全体像と共通する考え方をまとめました。
それぞれの症状には、より具体的な対応のコツがあります。
気になる症状があるときは、
ぜひ個別の記事もあわせてご覧ください。
「困った行動」と見えていたものが、
“理解できるサイン”として見えてくると、関わり方が少しずつ変わっていきます。
ご本人にとっても、家族にとっても、
少しでも安心できる時間が増えていくことを願っています。
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周辺症状への対応は、「これで合っているのかな」と迷いながら続くことが少なくありません。
うまくいかない日があるのは自然なことです。
介護する側の心が折れないことも、大切なケアのひとつです。
🏥 ひとりで抱え込まず、相談して大丈夫です
症状が続いてつらいとき、対応が難しくなってきたとき、
「これでいいのか不安」と感じたときは、早めに相談してください。
- かかりつけ医
- ケアマネジャー
- 地域包括支援センター
- デイサービス・ショートステイ など
相談することは、悪化したからではなく、本人と家族を守るための前向きな一歩です。









