認知症の周辺症状「不安」を読み解く――喪失体験と家族にできる支え方
2025/12/07
目次
認知症の方は、日々の中で大きな不安を抱えています。
「家がわからない」
「人の名前が思い出せない」
「失敗するのではないか」――
こうした感覚は、本人にとって“突然世界から切り離されるような怖さ”を伴います。
不安は、認知症の中核症状(記憶障害・判断力低下など)から自然に生じるものですが、
同時に 他の周辺症状(BPSD)を引き起こす引き金 にもなります。
たとえば、帰宅願望、怒り、興奮、隠し事、徘徊など、
多くの行動には“不安”が深く関わっています。
では、認知症の不安はなぜこれほど強くなるのでしょうか。
背景には、病気の進行とともに訪れる さまざまな“喪失体験” があります。
記憶、役割、人とのつながり、自立性――
これまで当たり前だったものが少しずつ失われていく過程で、
人は誰しも不安を感じます。
本記事では、
認知症の“不安”の背景にある喪失体験を整理し、
そのうえで、家族がどのように寄り添い、支えることができるのかを、
医学的な視点を交えながらわかりやすく解説します。
「不安は消せない」
けれど「不安は和らげられる」。
そのために必要な視点と関わり方を、ここから一緒に見ていきましょう。
認知症の方が感じる不安は、突然生まれるものではありません。
その背景には、
病気の進行とともに訪れる いくつもの喪失体験が重なっていくプロセス があります。
記憶の喪失、
役割の喪失、
人間関係の希薄化、
生活の自立性の低下…。
どれか一つが原因ではなく、それらがじわりと積み重なっていくことで、
本人の心の中に「世界が不安定になる感覚」が生まれていきます。
喪失体験とは、単に“できないことが増える”という意味だけではありません。
その背後には、
「自分はどう生きていけばいいのか」
「まわりの人とどうつながればいいのか」
といった人生の根幹に関わる揺らぎが存在します。
まずは、その喪失体験がどのように不安を形づくるのかを、順に見ていきましょう。
1-1 記憶の喪失 ― “思い出せない”ことが生む混乱と怖さ
認知症の最も代表的な症状である記憶障害。
最近の会話や出来事が思い出せない短期記憶の低下は、
日常の中で「次に何をすべきかわからない」という不安を生みます。
・家を出た理由を忘れる
・物がどこにあるかわからない
・約束を忘れてしまう
こうした経験が繰り返されると、
本人は「また間違えるのではないか」という恐怖を抱き、
行動に慎重になりすぎたり、逆に落ち着かなくなることがあります。
病気が進行すると、長期記憶にも影響が及び、
家族との思い出や、生きてきた歩みが曖昧になっていくこともあります。
これは、後に触れる“自己認識の揺らぎ”と深くつながる重要なポイントです。
1-2 人間関係・社会的つながりの喪失 ― 孤立による不安
認知症が進むにつれ、コミュニケーションが難しくなり、
家族や友人との関係性が少しずつ変化していきます。
会話が噛み合わない、
表情の意図を読み取れない、
理解に時間がかかる――
こうした体験は、
本人に「人とうまく関われない」という感覚をもたらします。
社会活動からも徐々に距離が生まれ、
孤立感が強まることで、不安はさらに深くなっていきます。
1-3 能力・自立性の喪失 ― “できていたこと”が失われるつらさ
料理、買い物、金銭管理、バスに乗る、着替える…。
ごく当たり前だった日常の動作が難しくなることで、
本人は「自分は頼りない」「迷惑をかけてしまう」という強い不安を抱えます。
特に長年自立して生活してきた方ほど、この喪失は精神的な打撃が大きく、
不安から意欲を失ったり、逆に怒りとして表に出ることもあります。
1-4 未来の見通しの喪失 ― 先が見えないことへの恐怖
認知症の方の多くは、症状が進行していることを自覚しています。
「これからどうなるのだろう」という漠然とした不安は、
どの段階でも静かに、しかし確実に心を締めつけます。
・家族に迷惑をかけるのでは
・自分は最後どうなるのだろう
・どんな生活になるのか
未来に形を与えられない状態が続くことは、大きな心理的ストレスです。
1-5 時間感覚の喪失 ― “世界の秩序”が揺らぐ不安
朝なのか夜なのか、今日が何日なのか。
時間の流れをつかみにくくなると、
生活の節目が曖昧になり、混乱と不安が強まります。
過去の出来事と現在が混ざることもあり、
亡くなった家族を探したり、昔住んでいた家に帰ろうとするなど、
“現実とのズレ”が不安をさらに加速させます。
🟨 第1章のまとめ
認知症の不安は、
「記憶」「つながり」「能力」「未来」「時間」
という五つの軸が揺らぐことで生まれる多層的な体験です。
このあと続く第2章では、
こうした喪失の土台にある“もっと深い核”――
自己認識(アイデンティティ)の揺らぎ について掘り下げます。
認知症による喪失体験の中でも、
もっとも深く、本人の精神を揺さぶるものがあります。
それが 「自己認識(アイデンティティ)の揺らぎ」 です。
記憶を失うこと、生活の中で困ること、未来が見えなくなること——
それらは表面的な変化として捉えられがちですが、
本当につらいのは、その変化が 「自分とは何か」 を少しずつ曖昧にしていくことにあります。
2-1 “自分が誰か”をつかめなくなる不安
認知症の進行に伴い、
名前、生年月日、職業、家族との関係、人生の経験——
自分を形づくってきた情報が薄れていくことがあります。
「私は誰なんだろう」
「ここにいる理由は?」
「この人は私とどういう関係?」
こうした疑問が心の奥にわき上がったとき、
本人は言葉にできない恐怖と孤独を感じます。
これは、ただの記憶症状ではなく、
“自己の連続性”が揺らぐ体験 といえます。
2-2 役割を失う痛み — “自分という存在の位置づけがわからなくなる”
人は誰しも、家庭や職場、地域で何らかの役割を持っています。
・家族を支える立場
・職場での責任
・地域でのつながり
・趣味や仲間との関係
認知症は、この「役割=存在意義」を揺るがせます。
食事づくりができない、金銭管理が難しい、仕事が続けられない。
できないことが増えるたびに、
本人の中では “自分の価値” が揺れていきます。
「自分はもう役に立てないのでは」
「家族に迷惑をかけているのでは」
その感覚が、不安をより深いものにします。
2-3 世界とのつながりが弱まると、自分も薄れていく
認知症によって人間関係や社会活動が減っていくと、
“自分が社会の中に存在する感覚” が弱くなります。
コミュニケーションが難しくなることで、
誤解されたり、話が噛み合わなかったりする場面も増えていきます。
そのたびに、
「自分はここにいていいのか」
「誰かの役に立てているのか」
という不安が芽生えます。
つながりの希薄化は、
自己の輪郭そのものをぼやかす ため、
心の安定を大きく揺るがします。
2-4 “過去と現在の境目が崩れる”ことの怖さ
時間感覚が揺らぐと、
今ここにいる自分と、過去の自分との隔たりが曖昧になります。
数十年前に住んでいた家に帰ろうとする。
すでに亡くなった家族を探す。
子ども時代の記憶がよみがえり、突然不安に包まれる。
こうした現象は、
ただの見当識障害ではなく、
“自分という存在の位置づけが揺らぐ体験” そのものです。
世界の秩序が乱れると、
心の中に強い不安が生まれます。
2-5 自己認識の揺らぎは、行動や感情の“背景”として現れる
自己認識が揺らいだとき、
本人はそれをうまく説明できません。
しかし、その影響は行動として現れます。
・徘徊(帰るべき場所を探してしまう)
・不安・焦燥(自分の位置がつかめない)
・怒り(混乱からの防衛反応)
・依存(安心できる人を探す)
つまり、周辺症状と呼ばれる行動の多くは、
“自分が自分である感覚”を保とうとする必死の試み と見ることができます。
この視点があると、
介護者は「なぜこの行動が起こるのか」をより深く理解でき、
対応もずっと適切になります。
🟨 第2章まとめ
認知症の不安の中心には、
“自己という基盤が揺らぐ体験” があります。
第1章で触れた喪失の数々は、その周囲を取り巻く要素。
しかし、もっとも深いところで揺れているのは、
「自分とは何か」という根源的な問いです。
ここを理解することは、
認知症ケアの質を大きく変える基礎になります。
認知症の方が抱える不安は、曖昧で漠然としたものに見えるかもしれません。
しかし、その背後には明確な原因が存在し、
脳の変化・環境のズレ・生活上の困難が重なり合うことで生じています。
ここでは、実際のケア現場でもよくみられる代表的な6つの不安を、
脳科学的な背景とともに整理します。
3-1 記憶が思い出せない不安 ― “世界との接続が切れる”恐怖
記憶障害は、認知症の最も典型的な症状です。
しかし、単に「忘れる」だけではありません。
忘れてしまった瞬間、
本人の中では次のような不安が生まれます。
・「ここはどこだろう」
・「さっき何をしようとしていた?」
・「この人は私を知っているが、私は覚えていない」
短期記憶が抜け落ちると、行動の“連続性”が断たれ、
「今この瞬間の意味づけ」ができなくなります。
さらに長期記憶が薄れてくると、
家族との関係や人生のストーリーが曖昧になり、
アイデンティティの揺らぎが不安を深めていきます。
これが第2章で述べた「自己の揺らぎ」と密接に関連します。
3-2 判断できない不安 ― “間違いが怖い”という心理
認知症の進行により、
情報を比較し選択する「実行機能」が低下します。
そのため、
・買い物で商品を選べない
・料理の手順が組み立てられない
・金銭管理が難しくなる
など、
日常のささやかな場面で、本人は強い緊張を抱えます。
特に、
「失敗したくない」
「間違えたら叱られるかも」
という不安が行動を萎縮させ、
結果として“何もやりたがらない状態”を生み出すこともあります。
3-3 環境の変化への不安 ― 見慣れない世界は脳に負荷をかける
環境の変化は、認知症の方にとって大きなストレスです。
脳の中の「海馬」は場所や時間の情報を処理する役割があり、
認知症ではこの領域が早期から影響を受けるため、
新しい環境に適応する力が著しく低下します。
そのため、
・病院や施設への入所
・模様替え
・旅行
といった変化が、強い混乱や不安を生みます。
「ここはどこ?」
「帰らなくては」
という帰宅願望も、この不安から生まれます。
3-4 未来が見えない不安 ― “これからどうなる?”の恐怖
認知症の初期では、自分の認知機能の衰えを自覚していることが多く、
その自覚が未来への不安につながります。
・この先どうなるのか
・家族に迷惑をかけるのでは
・介護が必要になったらどうしよう
といった思いが、心の底にずっと残り続けることがあります。
また、第2章で述べた「役割喪失」の問題とも重なり、
人生全体の見通しが立たない不安へとつながります。
3-5 身体の不調が伝えられない不安 ― “痛みの正体がわからない”負担
身体の痛みや不快感があっても、
適切に言語化できない場合があります。
・「なんとなく落ち着かない」
・「ここが変だけど説明できない」
この“説明できない不調”が、
さらに不安を増幅させることがあります。
特に、
便秘、脱水、感染症、疼痛などの身体症状は、
不安や怒り、徘徊、夜間の混乱といったBPSDに直結しやすく、
医学的な対応が重要です。
3-6 コミュニケーションが噛み合わない不安 ― “置いていかれる感覚”
認知症が進むと、
言葉の理解や記憶の保持が難しくなるため、
会話が噛み合わない場面が増えます。
そのたびに、
「自分だけわからない」
「話に入れない」
「迷惑をかけているのでは」
といった孤独感や疎外感が強まります。
結果として
・怒りっぽくなる
・黙り込む
・家族から距離をとる
といった反応につながることもあります。
🟨 第3章まとめ
認知症の方が抱える不安は、
“曖昧で漠然としたもの”ではありません。
・記憶
・判断
・環境
・身体
・未来
・コミュニケーション
といった具体的な領域の中に、
理解すべき原因が存在しています。
これらを知ることで、
介護者は本人の行動の背景をより深く読み取り、
次の章につながる「対応のコツ」へと橋渡しができます。
第2章・第3章で整理したように、認知症の不安は
単なる「心配性」ではなく、
脳の変化・喪失体験・環境ストレスが重なって生まれる非常に合理的な反応です。
ここでは、その不安を和らげるために効果的とされる支援法を、
環境・コミュニケーション・役割・生活リズム・専門支援
の5つの柱で整理します。
4-1 安心できる環境づくり ― “混乱を減らし、予測可能性を増やす”設計
認知症ケアの基本は、環境調整です。
不安の大部分は「情報処理が追いつかない」状況で起こるため、
環境を“わかりやすく・安全に・親しみやすく”整えることが効果的です。
① 慣れ親しんだ物・空間を活用する
人は記憶の多くを「物」「空間」の手がかりで思い出します。
認知症ではこの働きが大きな安心要素になります。
例:
・昔から使っている家具や食器
・家族写真、思い出のアルバム
・本人が好んでいた色・柄の衣類
・馴染みのある音(ラジオ、音楽)
これらは「自分はここにいてよい」という安定感を育てます。
② シンプルで安全なレイアウトにする
複雑な部屋は混乱を招きます。
ポイント:
・動線はまっすぐに
・よく使う物は“見えるところ”へ
・転倒リスクのある物を片付ける
・部屋の明るさを一定に保つ(影は不安の原因)
認知症の方は“探す”こと自体がストレスになるため、
視覚的な手がかりを増やすことが大切です。
③ ラベル・サインの活用
戸棚や引き出し、トイレのドアなどに
何があるかを書いて貼るだけで、混乱が大幅に減ります。
例:
・「タオル」
・「薬」
・「トイレ →」
・「玄関ではありません」
視覚的ヒントが増えると、
“自分でできる”成功体験も増え、自己肯定感が保たれます。
4-2 共感的コミュニケーション ― 不安の“根っこ”に寄り添う
認知症ケアで最も重要とされるのが、この領域です。
言葉の理解や記憶が難しいときでも、
“感情”はしっかりと保たれています。
そのため、コミュニケーションの質は本人の安心感に直結します。
① 否定しない、訂正しすぎない
認知症の方が「事実と違うこと」を言うとき、
脳内ではその人なりの“理由”が成立しています。
訂正すると、
・恥ずかしさ
・混乱
・怒り
・疎外感
が生じやすく、不安が強まります。
代わりに使うと良い言葉:
・「そう感じたんですね」
・「大事なことなんですね」
・「その気持ち、わかります」
事実を治すより、気持ちを支えることが効果的です。
② 不安の裏にある“本当のメッセージ”を探る
例:
「家に帰りたい」
→ 安心したい、落ち着ける場所を求めている。
「泥棒が入った」
→ 物が見つからない → 記憶の喪失に対する不安。
「ご飯はまだ?」
→ 時間感覚の揺らぎ、孤独感、身体の不調。
言葉そのものではなく、
その言葉を選ばせている感情に注目すると、
対応が適切になります。
③ ゆっくり・短く・具体的に話す
・一文を短く
・選択肢を少なく
・説明は一度にひとつ
・早口は不安を強める
これは脳への負荷を減らし、
本人が“理解できた”という小さな成功体験を積む助けになります。
4-3 役割づくり ― “自分は必要とされている”感覚が不安を和らげる
認知症の方の不安の多くは、
「自分の価値がわからない」という喪失感から生じています。
小さな役割でも
「頼られている」
「参加できている」
という感覚は、大きな安心になります。
① 日常の中で参加できる活動を用意する
・食卓を拭く
・タオルをたたむ
・花の水やり
・洗濯物を仕分ける
・新聞をそろえる
・シール貼りなどの単純作業
重要なのは“完璧さ”ではなく、
・手を動かす
・結果が見える
・感謝される
という経験です。
② 過去の職業や経験を生かす
・元教師 → 子どもや孫の学習を見る
・元大工 → 簡単な工具整理
・農業経験 → 土いじり
・営業職 → 来客への挨拶
本人の“人生のストーリー”が生きる役割は、
自己認識を強く支えます。
4-4 生活リズムを整える ― 情動を安定させる“土台づくり”
生活リズムが乱れると、
不安・怒り・夜間の混乱(夕暮れ症候群)が増えます。
特に認知症では、体内時計の調整機能が弱くなるため、
外部から“リズムを整えてあげる”ことが重要です。
① 毎日のスケジュールを一定にする
・起床時間
・食事時間
・散歩や運動
・入浴
・就寝
予測可能性が高まるほど、
脳は安心を感じやすくなります。
② 日中の活動量を増やす
身体を動かすと、
・夜間の覚醒が減る
・不安が減る
・日中の活力が上がる
など、多くのメリットがあります。
③ 光の調整で体内時計を支える
・朝の散歩や日光浴
・夕方以降は照明を少し落とす
・夜のブルーライトを避ける
光は体内時計の“大切なスイッチ”です。
4-5 専門的な支援の活用 ― 家族だけで抱えないことが安定につながる
① 医療的支援(専門医)
記憶・行動・身体症状の変化は、
認知症だけでなく、他の病気によって起こる場合もあります。
・薬の調整
・身体疾患の治療
・BPSD(行動・心理症状)への対応
は専門医の介入が有効です。
② デイサービス・レスパイトケア
家族の負担が軽くなるだけでなく、
本人にとっても
・活動の機会
・社会性の維持
・安心できる居場所
となります。
心理的安定につながり、
不安の軽減に大きく寄与します。
③ 介護者支援(相談・カウンセリング)
介護者の心が疲れていると、
本人の不安も強くなります。
専門家のサポートは、
“家族が無理をしない仕組み”として非常に重要です。
🟨 第4章まとめ
認知症の不安を和らげる支援は、
特別なテクニックではなく、
・環境
・コミュニケーション
・役割
・生活リズム
・専門支援
という“安心の5本柱”の積み重ねです。
本人が
「理解されている」
「必要とされている」
「自分らしくいられる」
と感じられる時間が増えるほど、
不安は確実に軽くなっていきます。
第4章では、認知症のご本人が抱える不安を和らげるための具体的な支援をご紹介しました。
しかし、認知症ケアにはもう一つ欠かせない視点があります。
それは、
「支える家族を支えること」
です。
ご本人の安心は、
家族が落ち着いて関われる環境があってこそ成立します。
家族が疲れきってしまうと、
どれほど丁寧なケアをしようとしても限界が訪れます。
国際的な研究でも、
介護者のストレスが高いほどBPSD(周辺症状)は悪化しやすいことがわかっています。
だからこそ家族自身のケアは、
本人のケアと同じくらい重要な“もう一つの柱”なのです。
◆ 5-1 家族が感じる“喪失体験”と不安
家族もまた、本人とは異なる形の喪失や不安を抱えています。
・昔のように話し合えない
・役割が変わり、生活が大きく揺らぐ
・将来の見通しが立たない
・責任が自分一人にのしかかる
・「この先もっと悪くなるのでは」という恐怖
こうした不安は、家族の心に深い疲労を生み、
怒り・哀しみ・罪悪感など複雑な感情を引き起こします。
認知症ケアは、家族自身の感情にも寄り添う視点が欠かせません。
◆ 5-2 支援①|家族が安心できる“情報と理解”を増やす
不安の多くは「わからない」「先が見えない」ことから生じます。
そのため、第一歩は 情報を正しく得ること です。
・認知症がどう進行するか
・どんな対応が本人を落ち着かせるのか
・利用できる制度や支援は何か
これらを知ることで、
「できること」「しなくてよいこと」が整理され、心が安定します。
相談窓口
・地域包括支援センター
・かかりつけ医
・認知症初期集中支援チーム
・家族会
情報を知ること自体が、家族の安心をつくる大切なケアです。
◆ 5-3 支援②|家族と本人の“同時に安心できる環境づくり”
第4章で述べた環境調整は、家族にとってもメリットがあります。
・迷わないよう家の配置を整える
・見通しのある生活リズムをつくる
・危険を減らす仕組みを作る(センサー・鍵など)
これらは本人の混乱を抑えるだけでなく、
家族が「見張り続けなくては」という緊張から解放される効果があります。
環境調整は、
“本人と家族、両方の安心を増やすための投資”
と考えるのが適切です。
◆ 5-4 支援③|介護者の負担を軽くする“レスパイトケア”の活用
介護は、どれだけ愛情があっても 24時間体制では続けられない ものです。
休むことは“怠け”ではなく、必要な介護技術のひとつ。
使える支援は次のようなものがあります。
・ショートステイ
・デイサービス
・訪問介護
・ヘルパーの定期利用
・家族を支えるサポート(家族介護教室・家族会・相談支援など)
一時的に介護から離れることで、
体力と精神の回復、視野の広がり、怒りや悲しみの鎮静につながります。
休める家族は、結果としてよりよいケアができる。
これは介護の現場で何度も実証されてきた事実です。
◆ 5-5 支援④|家族自身の“感情”をケアする方法
家族が抱える感情はとても複雑です。
・悲しみ
・怒り
・無力感
・罪悪感
・孤独
これらを「感じてはいけない」と抑え込むと、心が消耗してしまいます。
必要なのは、
・気持ちを言葉にしていいと自分に許可する
・信頼できる人に話す
・専門家(カウンセラーなど)に相談する
・介護者の交流会で共有する
感情を“外に出す”ことは、予想以上に大きな安らぎを与えてくれます。
◆ 5-6 支援⑤|家族が自分の生活を保つことが、本人の安心につながる
介護の負担が大きくなると、
家族はどうしても自分の生活を犠牲にしがちです。
しかし、
・眠れていない
・周りと話す時間がない
・趣味が全部なくなる
・仕事と介護の板挟み
こうした状態は徐々に心の余裕を奪い、
本人への関わりにも影響してきます。
だからこそ、
・十分な睡眠
・息抜き
・自分だけの時間
・仕事とのバランス
・周囲のサポートの利用
これらを“優先順位の高いケア”として扱うことが重要です。
家族が穏やかでいられることは、本人の安心に直結します。
それは介護の「裏テーマ」であり、最も強力な支援のひとつです。
◆ 第5章まとめ
認知症ケアは本人だけでは完結しません。
家族という“支える存在”が、安心してケアに向き合える環境を整えること――
それが結果として、認知症の方にとって最も穏やかな生活につながります。
家族のケアは“特別なもの”ではなく、
認知症ケアの中心にある重要な視点です。
認知症の“不安”は、単なる感情ではありません。
記憶、役割、自立性、人とのつながり――
さまざまな「喪失」が重なりながら進行する病気のなかで、
本人が世界とのつながりを必死に確かめようとするサインでもあります。
そして、不安の背景を理解すると、
日々の小さな行動の意味がまったく違って見えてきます。
突然怒り出す、理由もなく帰りたがる、夜になると落ち着かない――
それらは“困った行動”ではなく、
「どうか安心させてほしい」という心の声 です。
家族にできることは、完璧なケアをすることではありません。
- 環境をわかりやすく整える
- 気持ちに共感し、否定せずに受け止める
- できる役割を小さく残す
- 生活リズムを安定させる
- 必要なときは専門職に頼る
それだけで不安は確実に軽くなります。
介護は長い道のりです。
無理をし続ければ、本人も家族も疲れてしまいます。
だからこそ、ショートステイやデイサービスなどの
“レスパイトケア”を上手に使ってください。
介護者が安心して休めることは、本人にとっても大切な支えになります。
認知症の人は、最後まで“感情の記憶”を強く持っています。
優しく声をかけてもらった経験、手を握ってもらった温かさ、
安心できた時間――
それは長く心に残り続けます。
不安の正体に気づき、その背景に寄り添うこと。
それが、本人の尊厳を守り、穏やかな日々につながる
最も大切なケアのひとつです。
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