誤嚥性肺炎を繰り返す方へ
2024/01/30
誤嚥性肺炎を繰り返す方へ
先日届いた Medical Tribuneに
「摂食嚥下対策の質の向上を目指す」というタイトルで多科・多職種で行っている包括的アプローチが取り上げられていました。
なぜ、私が摂食嚥下対策の質の向上に興味を持ったかというと
肺炎は日本人の死因の第3位であり、年間約12万人の人が肺炎で亡くなっています。
そのため、肺炎球菌ワクチンの接種がすすめられていますが、
ご高齢になって肺炎で亡くなる方の多くはおそらく誤嚥性肺炎ではないかと推察されます。
ここで疑問なのが、誤嚥性肺炎に肺炎球菌ワクチンがどこまで有効なのか?ということです。
肺炎球菌は、日本人の高齢者の約3~5%の鼻やのどの奥に常に存在している常在菌と言われています。
つまり、健康な時にはあまり悪さをしない菌ということです。
しかし、いったんご本人の免疫力が低下すると肺炎や中耳炎などを引き起こす原因となります。
特に、高齢者では嚥下機能が落ちており、
食事や水分が気管の中に入る(誤嚥)を引き起こす可能性が高いため、
肺炎球菌による誤嚥性肺炎を引き起こす可能性が高いとして、
肺炎球菌ワクチン接種がすすめられているわけです。
この1割にも満たない3~5%という数字をどうとらえるかということになるかと思います。
もちろんご高齢の方が持っている肺炎球菌は悪さをすると重症化するリスクが高いわけですから、
3~5%の方が持っている肺炎球菌に対処をするというのは大切かもしれません。
では、別の観点から見ていきましょう。
誤嚥性肺炎を発症した人の中で、肺炎球菌が原因だった人がどれくらいいるのかということです。
こちらは、2016年のデータですが、
誤嚥性肺炎になった方のうち約11.6%のかたが肺炎球菌が原因となる誤嚥性肺炎でした。
最も多かったのが口腔連鎖球菌で31.0%、同じく常在菌であるインフルエンザ菌は16.7%。
昔は多いと考えられていた嫌気性菌は意外と少なく、6%だったそうです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/juoeh/41/2/41_185/_pdf/-char/ja
つまり、何が言いたいのかというと
肺炎球菌ワクチンを打っても肺炎のリスクを少し減らすということしかできないということです。
最も重症化しやすい原因を断つという意味では重要かもしれませんが。。。
誤嚥性肺炎を予防しようと思ったら、やはり地道に
嚥下機能の維持・改善と口腔ケア、その人にあった食形態や食事のときの身体の位置などを
検討していくのが一番重要なのです。
さらに、記事では、誤嚥をしたら禁食という考えもありますが、
多角的視点で誤嚥予防に取り組み経口摂取をめざすとりくみを行っていると紹介されていました。
食事や水分を口からとらないことは、
誤嚥性肺炎を予防するという観点では安全な方法ではありますが、
口から食事や水分を取らないことでの弊害もあります。
機能的面でいえば
・口やのどを使わないことによる機能低下
つまりお話をしたり、食事をしたりする機能がさらに落ちるということです。
これは口からものをとっていない状態でも誤嚥性肺炎を起こすリスクにつながります。
唾液の誤嚥による肺炎です。
・腸管を使わないことによる機能低下
こちらは腸管免疫能の低下だけではなく、腸内に生息している菌だけでなく死滅した菌やエンドトキシンが
腸管上皮を通過して、他の臓器に移行するバクテリアル・トランスロケーションという状態を引き起こしかねません。
このような機能的な側面だけでなく、
お口から食べるということは
ご本人の意欲や活力アップにつながります。
咀嚼は最も簡単に行えるリズム運動でもあります。
咀嚼することで脳の前頭前野の活動性が上がったという報告もあります。
まずは、口腔ケアと嚥下体操から始めてみてはいかがでしょうか?
嚥下体操の詳細はこちらのリンクを参照ください。
https://www.nichiiko.co.jp/generic/swallow/swallow_exercise01.php