認知症の実行機能障害とは?――「段取りができない」が起こる理由と家族の支え方
2026/03/10
目次
はじめに
「料理を始めたのに、途中で別のことを始めてしまう」
「買い物に行くのに、何を持っていくのか決められない」
「やるべきことは分かっているのに、手が止まってしまう」
そんな“段取りの崩れ”が続くと、家族はつい、
「やる気がないのかな」
「前はできていたのに、どうして?」
「ちゃんとしてよ」
と思ってしまうことがあります。
でも実は、
こうした変化は、怠けや性格の問題ではなく、
認知症で見られる 「実行機能障害」 という脳の働きの変化が関係していることがあります。
実行機能とは、簡単に言えば
「計画を立てて、順番を決めて、始めて、途中で切り替え、最後までやり切る」ための力です。
この“段取りの力”が弱くなると、
本人は「わざと」ではなく、
何をどう進めればいいのかが分からなくなり、
途中で止まったり、混乱したりします。
そして厄介なのは、
本人が困っていても、うまく言葉にできないことが多い点です。
その結果、
家族の側からは
「サボっている」
「言えばできるはず」に見えてしまい、
お互いに苦しくなりやすいのです。
この記事では、
- 実行機能障害とは何か(やさしい整理)
- 生活の中でどんな“段取りの崩れ”が起きやすいのか
- 記憶障害や判断力低下との違い(混ざりやすいポイント)
- 家族ができる声かけと環境調整(仕組みで助けるコツ)
- 医療や介護につなぐ目安
を、順を追ってわかりやすくまとめます。
「うちの困りごとは、これなのかもしれない」
そう感じた方が、
今日から少しだけ楽になるヒントになれば幸いです。
認知症の実行機能障害は、「計画→開始→順番→切り替え→終える」という“段取りの力”が弱くなることで起こります。
その結果、途中で止まる・複数のことができない・何から手をつければいいか分からないといった困りごとが、生活の中で目立ってきます。
責めるほど悪化しやすいので、ポイントは「できるようにする」より「迷わない仕組みを作る」こと。
家族の負担も軽くなる工夫を、ここから一緒に整理していきましょう。
第1章|実行機能障害とは?「段取りの力」が弱くなる状態
実行機能障害は、
認知症で見られることのある「中核症状」のひとつです。
一言でいうと、
段取りを組み立てて、
行動を最後まで進める力が弱くなる状態です。
家族からは、
- 「やればできるはずなのに、なぜやらないの?」
- 「前はできていたのに、どうして途中で止まるの?」
と見えやすいのですが、
本人の中では
“わざとやっていない”のではなく、
進め方が分からず固まっていることが少なくありません。
ここでは、
実行機能障害で何が起きているのかを、
できるだけわかりやすく整理します。
実行機能=「計画→開始→順番→切り替え→終える」力
実行機能は、
私たちが日常生活を回すために使っている“司令塔”のような働きです。
具体的には、次のような力の組み合わせです。
- 計画する:何をどの順番でやるか決める
- 開始する:やるべき行動を始める
- 順番を守る:手順を飛ばさず進める
- 切り替える:途中で状況に合わせて次へ移る
- 終える:区切りをつけて片付けまで行う
たとえば
「料理をする」という行動ひとつでも、実行機能はたくさん使われています。
献立を決める
→ 冷蔵庫を見る
→ 足りないものを考える
→ 調理を始める
→ 火加減を見る
→ 途中で洗い物を挟む
→ 盛り付ける
→ 片付ける
こうした“流れ”をまとめて動かしているのが実行機能です。
実行機能障害があると、
この流れのどこかでつまずきやすくなります。
その結果、
途中で止まる・別のことに移って戻れない・終われないといった困りごとが起こります。
なぜ認知症で起こるのか(脳の連携が弱くなる)
実行機能は主に、
脳の前頭葉を中心としたネットワーク(脳の連携)で支えられています。
認知症では、
病気のタイプや進行の程度によって差はありますが、
この“連携”が弱くなることで、
次のようなことが起こりやすくなります。
- 情報をまとめにくい
- 優先順位をつけにくい
- 手順の見通しが立ちにくい
- 切り替えが苦手になる
つまり、本人の意志や努力の問題というより、
「考えをまとめて行動に移す回路がうまく働きにくくなっている」状態です。
ここを理解すると、
家族の関わり方が変わります。
“叱って動かす”のではなく、
“迷わない仕組みをつくる”方向に切り替えやすくなるからです。
「やる気がない」のではなく「選べない・進められない」ことがある
実行機能障害があると、
本人の中ではこんな感覚が起こりえます。
- 何から始めればいいか分からない
- 頭の中がごちゃごちゃして動けない
- 途中で別の情報が入ると切り替えられない
- 失敗が怖くて手が止まる
- 疲れやすく、途中で投げ出したくなる
ただし、本人はそれをうまく言語化できないことも多いため、
家族からは「やる気がない」「適当にやっている」に見えてしまうことがあります。
だからこそ、
責めるほど悪循環が起こりやすいのです。
家族が急かす/叱る
⇒ 本人は焦って混乱する
⇒ さらに失敗が増える
⇒ 自信がなくなり、ますます動けなくなる
この悪循環を断つためには、
実行機能障害を「性格」ではなく「脳の働きの変化」として捉え、
手順を外付けする(仕組み化する)視点がとても重要になります。
この章のまとめ
実行機能障害は、
日常生活の“段取り”を組み立てて進める力が弱くなる状態です。
本人は「怠けている」のではなく、
進め方がわからず、迷って止まっていることがあります。
次の章では、
実行機能障害があることを
家族がどんな場面で気づきやすいのか――
生活の中でよく見られる「段取りの崩れ」を、具体例で整理していきます。
実行機能障害は、「やる気がない」「サボっている」ということではなく、“段取りの力”が弱くなって起こる変化です。
計画→開始→順番→切り替え→終えるという流れがうまくつながらないため、途中で止まったり、別のことに移って戻れなくなったり、「最後までやり切れない」ことが起こりやすくなります。
ここで大切なのは、叱って動かすことよりも、迷わない仕組みを先に整えること。
家族が「手順を外付けしてあげる」視点を持つと、本人も家族もラクになりやすくなります。
第2章|家族が気づきやすいサイン:日常で起こる「段取りの崩れ」
実行機能障害は、検査結果よりも先に、
日常生活の中の“段取りの崩れ”として気づかれることが多い症状です。
ここで大切なのは、
「できない」ことだけを見るのではなく、
どこでつまずきやすいのか(段取りのどの部分が弱くなっているのか)を知ることです。
そうすると、支え方も選びやすくなります。
家事・料理:手順が続かない/同じ作業を繰り返す
家事や料理は、
実行機能がたくさん必要な作業です。
そのため、段取りの変化が早めに表れやすい領域でもあります。
たとえば、
- 料理を始めたのに、途中で別の作業に移って戻れない
- 「次に何をするか」がつながらず、キッチンで止まってしまう
- 片付けを始めても、途中で止まり、物が出たままになる
- 同時に複数の工程(煮る+切る+洗う)が組めず、混乱する
- 「終わらせる」「片付けまで含めて完了する」が難しくなる
家族からは「注意散漫」に見えることがありますが、
実際には “手順の組み立て”や“切り替え”が負担になっていることが少なくありません。
※もちろん「火を消したか忘れる」などは記憶の要素も関わります。
ただ実行機能障害では、
忘れるというよりも“手順そのものがつながらない”という形で困りごとが目立つことがあります。
買い物・外出:準備に時間がかかる/必要物をそろえられない
外出には、見えない段取りがたくさんあります。
「何を持つ」
「何から準備する」
「どの順で動く」
を頭の中で組み立て、行動に移す必要があるからです。
実行機能障害があると、
たとえば次のようなことが起こりやすくなります。
- 出かける直前に
“準備の順番”が分からなくなり、玄関で止まってしまう
- 「財布・鍵・スマホ・マスク」など、
持ち物をそろえる優先順位がつけられず、同じところを行ったり来たりする
- 準備を始めても
途中で別のことが気になり、元の準備に戻れなくなる
- 「出発する」までの工程(靴を履く→鍵→バッグ→戸締まり)がつながらず、何度もやり直す
- 買い物では、
目的はあるのに売り場を回る順番が定まらず疲れてしまう/必要な物を選びきれない
※財布や鍵を「どこに置いたか思い出せない」場合は、記憶障害の要素が大きいこともあります。
ただ、実行機能障害があると、見つける以前に「探し方の段取り」や「次の行動への切り替え」が難しくなり、外出そのものが負担になりやすいのです。
書類・支払い:優先順位がつけられない/始められない/途中で止まる
実行機能は「何を先にやるか」を決める力にも関わっています。
そのため、書類や支払いのように“抽象的で見通しが立ちにくい作業”ほど負担になりやすいです。
たとえば、
- 郵便物を開ける前で止まり、溜めてしまう
- 仕分けの基準が決められず、机の上で固まる
- 途中までやって中断し、再開できない
- 「何から手をつけるか」が決められず放置が増える
- 重要度の判断がつけられず、後回しが続く
家族からは「面倒くさがっている」に見えることがありますが、
実際には “始め方が分からない”“手順が組めない”“再開できない” という実行機能の負担が背景にあることがあります。
時間管理:開始できない/終われない/切り替えられない
実行機能障害の特徴として、
「始める」「終える」「切り替える」が難しくなることがあります。
たとえば、
- 予定があっても準備に取りかかれず、直前で慌てる
- 片付けを始めても、途中で疲れて止まる
- テレビや作業をやめられない(区切りがつけられない)
- 次の行動に移るのに時間がかかる
- 「今はこれ」「次はこれ」が整理できず固まる
声をかけてもすぐに動けないのは、反抗ではなく
頭の中で“次の行動に切り替える処理”に時間がかかる場合があります。
「忘れた」より先に見える、“つまずき方”の特徴
実行機能障害では、完全にできなくなる前に、
次のような“つまずき方”が目立つことがあります。
- 手順が多いと混乱する
- 同時に言われると固まる
- 途中で止まって再開できない
- 切り替えが苦手で、終われない/次に行けない
- 疲れやすく、避けるようになる(失敗回避)
この状態が続くと、本人は
「また失敗するかもしれない」
「怒られたくない」
「もうやりたくない」
という気持ちになり、行動が減ってしまうこともあります。
家族からは「意欲が落ちた」に見えることがありますが、
背景に “段取りの負担” が隠れていることも少なくありません。
この章のまとめ
実行機能障害は、
「忘れる」よりも、
段取りが組めない・手順が続かない・切り替えられない
という形で日常に表れやすい症状です。
次の章では、
混ざりやすい
記憶障害・判断力低下との違いを整理し、
「何が起きているのか」をさらにクリアにしていきます。
第3章|記憶障害・判断力低下とどう違う?(混ざるけれど切り分ける)
実行機能障害の話をすると、よく出てくるのが
「それって、物忘れ(記憶障害)とは違うの?」
「判断力低下と同じでは?」
という疑問です。
結論から言うと、
別の症状です。
ただし、同じ人の中でいっしょに起こることも多いため、見分けにくいのです。
ここでは、家族が日常で判断しやすいように、
「何が主役になっている困りごとなのか」を整理します。
❶ 記憶障害:いちばんの困りごとは「覚えられない/思い出せない」
記憶障害(特に新しいことが覚えにくい・最近のことを思い出せない)が中心になると、
- 予定を忘れる
- 同じ話を繰り返す
- さっきしたこと自体を忘れる
- 物をしまったこと/しまった場所を忘れる
- 薬を飲んだかどうか分からなくなる
といった形で現れやすくなります。
この場合の支え方は、
「記憶に頼らなくていい仕組み」を作ることです。
- 定位置
- メモ・掲示
- アラーム
- 一包化やカレンダー
- 家族の見守り
などが効きやすい領域です。
❷ 判断力低下:いちばんの困りごとは「選べない/危険を予測しにくい」
判断力低下が中心になると、
- 優先順位がつけられない
- 金銭管理が難しくなる
- 危険の予測が難しい(火、車道、詐欺など)
- 状況に合った選択ができない
- 「善悪」や「距離感」がずれる
といった形で現れやすくなります。
支え方の軸は、
危険を減らし、判断の負担を減らすことです。
- 選択肢を減らす
- 誘導する
- 安全策を先に整える(火、戸締まり、金融)
- 詐欺対策の導線を作る
などがポイントになります。
❸ 実行機能障害:いちばんの困りごとは「手順がつながらない/始められない/終われない」
実行機能障害が中心になると、
「何をすればいいか分かっているように見えるのに、進められない」
という形が目立ちます。
- 準備の順番が組めない
- 手順が途中で途切れる
- 切り替えられない
- 途中で止まって再開できない
- 最後までやり切れない(片付け・締めができない)
この場合の支え方は、
“段取りを外付けする”ことです。
- 1回に1つ(短い指示を順番に)
- 手順を分解する(チェックリスト)
- 迷うポイントを減らす(環境調整)
- ルーチン化する(同じ流れにする)
が効きやすくなります。
迷ったときは、「いま一番困っているのはどこか?」を見て整理すると分かりやすくなります。
-
記憶障害:
「やったこと/聞いたこと/置いたこと」そのものが抜ける(思い出せない) -
判断力低下:
「どちらを選ぶか」「危険かどうか」を決めにくい(選べない) -
実行機能障害:
「どう進めるか(手順)」がつながらず、始められない/終われない(段取りが組めない)
実際は「混ざる」ことが多い(だから支え方も組み合わせる)
現実には、認知症の方の困りごとは
一つの症状だけで説明できないことが多いです。
たとえば、
- 料理中に途中で止まる(実行機能)
+ 火を消したか忘れる(記憶)
- 財布を探す(記憶)
+ 探し方の段取りが組めず疲れる(実行機能)
- 支払いを後回し(実行機能)
+ 期限やルールを理解しにくい(判断)
というように、組み合わさって起こります。
だからこそ、
「これは何の症状だろう?」と決めつけるより、
今いちばん困っているポイントはどこかを見て、
そこから支え方を選ぶのが現実的です。
支え方の方向性がズレると、家族も本人もつらくなる
例えば、実行機能障害が強いのに、
- 「覚えて」と繰り返す
- 長い説明をする
- 一度にたくさん指示を出す
といった対応をすると、
本人はさらに混乱しやすくなります。
逆に、記憶障害が中心なのに
「段取りだけ整える」だけだと、
「そもそも忘れてしまう」問題が残ります。
次の章では、
こうした混乱を減らすために、
家族がついやってしまいがちな逆効果な関わりを整理し、
その後で「安心につながる支え方」を具体的に紹介します。
認知症の困りごとは、記憶障害・判断力低下・実行機能障害が重なって起こることも多く、「ひとつに決めつける」のは難しい場合があります。
だからこそ大切なのは、「いま一番困っているのは何か(忘れる?選べない?段取り?)」を見て、支え方の方向性を選ぶことです。
支え方がズレると、本人も家族もつらくなりやすいので、次の章では、ついしてしまいがちな逆効果になりやすい関わりを整理していきます。
第4章|逆効果になりやすい関わり(家族が疲れやすいポイント)
実行機能障害があると、
本人は「どう進めるか」が整理しにくく、
頭の中が混み合った状態になりやすいものです。
そのため家族が善意でかけた言葉や手助けが、
かえって混乱や抵抗感を強めてしまうことがあります。
ここでは、よくある“逆効果になりやすい関わり”を整理します。
(うまくいかなかった日があるとしても、それは家族の努力が足りないからではありません)
❶ 急かす・同時に指示を出す(情報量が多すぎて固まる)
「早くして」
「まず靴を履いて、鍵持って、バッグ持って、戸締まりして」
家族としては、
スムーズに進めたい一心です。
ただ、実行機能障害があると、
“複数の手順を頭の中で並べて処理する”ことが負担になりやすく、
急かされた瞬間に
- 何からやればいいか分からない
- 順番が抜ける
- 混乱して止まる
ということが起こりやすくなります。
結果として、
家族はさらに焦り、声が強くなり、
本人はさらに固まる……
という悪循環になりがちです。
❷ 長い説明・正論・問い詰め(“整理する力”が追いつかない)
「前にも言ったよね」
「普通こうするでしょ」
「なんでできないの?」
こうした言葉は、本人にとって
- どこが問題なのか整理できない
- 言われた内容を処理しきれない
- 責められた感情だけが残る
という形になりやすいです。
実行機能障害の場面では、
“正しい説明”が届かないというより、
説明を受け取って整理する余力が足りないことがあります。
その結果、
- イライラする
- 反発する
- 黙り込む
- その場から離れる
といった反応になり、家族のつらさが増します。
❸「できてたのに」「前はできたのに」と言う(自尊心が傷つく)
実行機能障害は、
本人にとっても苦しい変化です。
本人なりに「うまくできない」ことを感じていることも少なくありません。
そこに、
「前はできたのに」
「なんで急にできなくなったの」
と言われると、本人は
- 恥ずかしい
- 情けない
- もうやりたくない
という気持ちになりやすく、
結果として
避ける/拒否する方向に進むことがあります。
“できないところ”を指摘するほど、
挑戦する力が削られてしまうのが難しい点です。
❹ 全部やってしまう(早いけれど、長い目で苦しくなる)
家族が忙しいときほど、
「私がやったほうが早い」
「危ないから触らないで」
と、本人の作業を全部引き取ってしまうことがあります。
もちろん、安全確保が必要な場面もあります。
ただ、何でも取り上げる形が続くと、
本人は
- 役割がなくなる
- できる部分まで失う
- 自信がなくなる
- ますます動けなくなる
という流れになりやすいのです。
結果として、家族の負担が増え、
「全部やらないと回らない」状態に近づいてしまうことがあります。
❺ “いつも通り”を求めすぎる(負荷が高すぎて崩れる)
実行機能障害のある方にとって、
予定変更、急な来客、急かされる環境は、負荷が高いことがあります。
- いつもと違う流れ
- 物の配置が変わる
- 予定が増える
- 音や刺激が多い
こうした変化は、
段取りの負担を一気に上げてしまいます。
「特別なことはしていないのに、今日は全然できない」
という日が起こりうるのは、このためです。
この章のまとめ|逆効果の共通点は「負荷が増えている」こと
逆効果になりやすい関わりには、共通点があります。
- 情報が多すぎる
- 速度が速すぎる
- 責められていると感じる
- 自尊心が傷つく
- 環境刺激が強い
つまり、本人の脳にかかる負荷が上がり、
段取りの回路がさらに働きにくくなるのです。
次の章では、逆に
迷わずに進められる関わり方と環境調整(段取りを外付けする工夫)
を具体的に整理していきます。
第5章|家族ができる支え方:段取りを「外付け」するコツ
― 迷わずに進められる“仕組み”を先に整える ―
実行機能障害があると、本人は
「何をすればいいか分からない」
「手順がつながらない」状態になりやすく、
頑張ろうとしても途中で止まったり、切り替えられなくなったりします。
だからこそ支え方のポイントは、
本人の中で段取りを“作らせる”のではなく、
段取りを外付けして、迷いを減らすことです。
ここでは、家族が無理なく取り入れやすいコツを5つに整理します。
❶「1回に1つ」:指示は短く、順番に
実行機能障害があると、
同時に複数の情報を処理するのが負担になりやすいです。
そのため、声かけは
- 短く
- 具体的に
- 1回に1つ
が基本になります。
✅ 例(外出準備)
×「靴履いて、鍵持って、バッグ持って、戸締まりして」
○「まず靴を履こう」
(できたら)「次は鍵を持とう」
(できたら)「最後に戸締まりしよう」
✅ 例(食事前)
×「手を洗って、席に座って、薬飲んで」
○「まず手を洗おう」→「次は席に座ろう」→「薬を飲もう」
“できたら次”の形にすると、
本人も家族もラクになります。
❷ 手順を「分解」して見える化する(チェックリスト・写真・ラベル)
実行機能障害の支援で強いのは、
手順を紙に出す(外付けする)ことです。
おすすめは、
生活の中で困りやすい場面にしぼって、
シンプルな手順表を作ることです。
✅ 例:朝の支度(A4の紙1枚)
1)顔を洗う
2)歯をみがく
3)服を着る
4)朝ごはん
5)薬
6)出かける準備
写真が使える場合は、
「歯ブラシ」「薬」「鍵」などを写真で貼ると、さらに迷いが減ります。
また、物の定位置にはラベルが有効です。
- 「鍵」
- 「財布」
- 「薬」
- 「マスク」
“探さなくていい”だけで、段取りの負担が大きく下がります。
❸ 環境を整える:迷うポイントを減らす(物・選択肢・刺激を減らす)
実行機能障害の支援は、
本人に頑張ってもらうより、
迷いの原因を減らすほうがうまくいきます。
✅ 具体例
- 机の上やキッチンを「物だらけ」にしない(視覚刺激が減る)
- 服は“いつものセット”を作る(選択肢を減らす)
- 買い物リストは固定化(同じフォーマット)
- 予定はカレンダーを1か所に集約(情報源を一本化)
ポイントは
「便利そうだから足す」ではなく、
迷わないために減らすことです。
❹ “流れ”を固定する:ルーチン化で段取りを助ける
実行機能障害があると、
その場で毎回「段取りを作る」のが負担になります。
そのため効果的なのが、
毎日同じ流れで動けるようにすることです。
✅ 例:食後の流れ
- 食後 → 歯みがき → お茶 → ひと休み
(「終わりの区切り」ができると、切り替えやすくなります)
✅ 例:外出前の流れ
- 玄関の“出発セット”(鍵・財布・マスク) → 靴 → 戸締まり
「考えなくても流れで進む」状態が作れると、
本人の疲労も家族の声かけも減っていきます。
❺ できる部分を“役割”として残す(自尊心と成功体験を守る)
全部手伝ってしまうと早いのですが、
本人の「できる感覚」が失われると、
その後の拒否・不安・意欲低下につながることがあります。
そこで、できる部分は“役割”として残すのがおすすめです。
✅ 例
- テーブルを拭く
- 洗濯物をたたむ
- 玄関の鍵を「一緒に確認」する
- 買い物袋を持つ
- チェックリストに✔を入れる
大切なのは、完璧さではなく、
「できた」「役に立てた」という感覚です。
生活場面別ミニレシピ(すぐ使える工夫)
内服管理(実行機能×記憶が混ざりやすい場面)
- 服薬は「時間」より「行動」に紐づける:朝食後/歯磨き後
- 1回分を取り出すだけにする(迷う工程を減らす)
- 家族は“できたか確認できる仕組み”を優先(ボックス・カレンダー等)
買い物
- 買う物は3つまで(選択肢を減らす)
- “順番”を固定(いつも同じ店・同じ通路)
- レジは家族が横につき、手順を短く声かけ
料理
- 同時進行をやめる(火を使う工程は1つずつ)
- 使う道具は先に並べる
- 「次の一手」カード(例:①切る②炒める③盛る)
実行機能障害への支え方の基本は、「本人にがんばって思い出してもらう」よりも、迷わず進められる仕組みを先に作ることです。
ポイントは3つだけ。
① 1回に1つ(短い声かけで順番に)/
② 見える化(チェックリスト・写真・ラベル・タイマー)/
③ 環境と流れを整える(定位置・選択肢を減らす・ルーチン化)
できるところは役割として残し、全部を取り上げないことも、本人の安心と自尊心につながります。
「うまくいく日も、いかない日もある」――それが自然です。
次の章では、医療や介護につなぐ目安を整理します。
第6章|医療・介護につなぐ目安(早めに相談したいサイン)
実行機能障害は、
日常の工夫(見える化・環境調整・ルーチン化)でラクになることも多い一方で、
家庭だけで抱えるには負担が大きい段階に入っていることもあります。
ここでは、「様子を見る」から「相談する」へ切り替える目安を整理します。
医療につなぐことは、
悪化したからではなく、
本人と家族が安全に暮らし続けるための調整です。
❶ 生活が回らない/安全面に影響が出てきたとき
実行機能障害が進むと、]
段取りの崩れが生活全体に広がりやすくなります。
次のような状況が増えてきたら、早めに相談を検討しましょう。
- 服薬管理が難しい
・服薬の“手順”が回らない(薬袋を開ける→必要量を選ぶ→飲む→片付ける、がつながらない)
・服薬の段取りが回らない(どれをいつ飲むか選べず止まる/準備の手順がつながらない)
・薬の管理が複雑になるほど混乱しやすい(食前・食後・就寝前などの切り替えが負担になる)
- 火や電気、戸締まりなどの安全が保ちにくい
- 金銭管理や手続きが回らない(督促が増える、詐欺の不安)
- 外出の準備ができず、生活範囲が急に狭くなる
- 家の中の段取りが崩れ、衛生や栄養が保ちにくい(食事が偏る、入浴が難しい)
「できないことが増えた」だけでなく、
安全や健康に影響が出始めたかどうかが一つの目安です。
特に、服薬は複数の力(記憶・判断・段取り)が必要なため、
困りごとの原因が一つとは限りません。
いずれにせよ安全に関わるため、早めの相談が有効です。
❷ 急な悪化があるとき(せん妄・体調不良・薬の影響も)
実行機能障害は“少しずつ”進むことが多いですが、
もし 短期間でガラッと悪化した場合は、認知症の進行だけでなく、
体調要因が隠れている可能性があります。
たとえば、
- ここ数日〜1週間で急に混乱が強くなった
- 夜眠れず昼夜逆転が急に悪化した
- 急に落ち着きがなくなり、怒りっぽくなった
- ぼんやりして反応が鈍い/逆に興奮が強い
こうしたときは、次のような要因の確認が必要です。
- 脱水
- 便秘
- 感染(風邪、肺炎、尿路感染など)
- 痛み(関節、歯、褥瘡など)
- 睡眠不足
- 薬の影響(睡眠薬・抗不安薬・抗精神病薬など)
「急におかしい」は、早めに医療へ相談してください。
❸ 家族が限界に近いとき(ここが大事な相談サイン)
実行機能障害は、
「毎日の段取り」を支える必要があるため、
介護者の疲労が積み重なりやすい症状です。
次のような状態が出ているなら、十分に相談の目安になります。
- 介護者が眠れない、食欲が落ちた
- イライラして強く言ってしまう/怒鳴り返してしまう
- 一人で対応するのが怖い、限界を感じる
- 家族内で揉めてしまう
- 「もう無理」と思う瞬間が増えた
これは「弱さ」ではなく、
支援を入れるべき段階に来ているというサインです。
家族が倒れてしまうと、暮らし自体が維持できません。
早めの外部支援は、
本人のためでもあり、家族を守るためでもあります。
❹ まずはどこに相談する?(相談先の目安)
状況に合わせて、次の順で考えるとスムーズです。
- かかりつけ医/認知症外来:
体調要因・薬の影響・せん妄の評価、必要なら検査
- ケアマネジャー:
デイサービス、訪問介護、ショートステイなど生活支援の調整
- 地域包括支援センター:
介護保険の申請前・サービス導入前の相談窓口
- 緊急性が高い場合(夜間の安全が保てない、急な体調悪化など):
早急に医療へ
「医療に相談=薬を増やす」ではありません。
まずは原因を確認し、生活の仕組みを一緒に整える相談です。
❺ 相談・受診時に伝えるとよいポイント(メモ用)
医療や介護に相談するときは、
次の情報があると状況が伝わりやすくなります。
- いつ頃から、どんな“段取りの崩れ”が目立つようになったか
- どんな場面で困るか(料理、外出、書類、服薬など)
- できること/できなくなったこと(変化の幅)
- うまくいく工夫/逆に悪化する対応(例:急かすと固まる)
- 睡眠、食事、水分、排便、痛みなど体調の変化
- 最近の薬の変更(追加・中止・量の変化)
- 介護者の疲労の度合い(夜間対応の有無、休めているか)
メモがあるだけで、相談がぐっとスムーズになります。
この章のまとめ|「相談」は悪化ではなく、暮らしを守るための調整
実行機能障害は、
本人の意思や努力の問題ではなく、
“段取りの回路”の変化によって起こります。
だからこそ、
日常の工夫で支えつつも、
- 安全面に影響が出てきた
- 急な悪化がある
- 家族が限界に近い
というときは、
早めに医療・介護につなぐことが大切です。
次はまとめとして、
この記事のポイントをもう一度整理します。
まとめ|「段取りができない」は“やる気”ではなく、脳の変化のサイン
認知症の実行機能障害は、
計画→開始→順番→切り替え→終える
という“段取りの力”が弱くなることで起こります。
そのため、本人は
- 何から手をつければいいか分からず止まる
- 途中で別のことに移って戻れない
- 同時にいくつも進められない
- 終わらせる/片付けるところまでたどり着けない
といった形で困りごとが出やすくなります。
これは怠けや性格の問題ではなく、
「手順を頭の中で組み立てて進める回路」が働きにくくなっている状態です。
また、認知症の困りごとは
記憶障害や判断力低下と重なって見えることも多いため、
「ひとつに決めつける」よりも、
いま一番困っているのは“忘れる/選べない/段取り”のどれかを見て支え方を選ぶことが大切です。
家族がついしてしまいがちな
- 急かす
- 長い説明で詰める
- 「前はできたのに」と責める
- すべて代わりにやってしまう
といった関わりは、
本人の混乱や不安を強め、悪循環になりやすいことがあります。
だからこそ支え方の基本は、叱って動かすよりも
段取りを“外付け”して、迷わない仕組みを作ることです。
- 1回に1つ(短い声かけで順番に)
- 見える化(チェックリスト・ラベル・タイマー)
- 環境と流れを整える(定位置・選択肢を減らす・ルーチン化)
- できるところは役割として残す(自尊心を守る)
そして、生活が回らない/安全面に影響が出る/急な悪化がある/家族が限界、
こうしたサインが見えてきたら、
医療や介護につなぐことは「悪化」ではなく「暮らしを守る調整」です。
「うまくいく日も、いかない日もある」
――それが自然です。
大切なのは、
家族だけで抱え込まず、仕組みと支援で支えながら、
本人の安心と暮らしの安全を守っていくことです。
📦 同じように悩んでいる方へ|あわせて読みたい関連記事
実行機能障害の困りごとは、記憶障害や判断力低下、周辺症状(BPSD)と重なって見えることもあります。
「今いちばん困っていること」に近いテーマから、必要なところだけ読んでみてください。









